デザイナー「佐藤可士和」氏に、経営者が行列をつくる理由。

佐藤可士和氏というデザイナーがいます。佐藤氏は私が在籍していた博報堂の出身ではありますが、特に面識があるわけではありません。ただ、コラムのタイトルにある「経営のとなりにあるデザイン」というテーマを考える上で、佐藤氏の仕事のスタイルは、ひとつの参考になると思っています。

外から見た私の推測ではありますが、今回は多くの経営者が佐藤氏に仕事を依頼する理由とは何か。他のデザイナーとは何が違うのかについて、デザイナーの視点で考えていきたいと思います。私はその理由は3つあると考えています。

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佐藤氏はCI(ここでは、主にロゴ)開発を得意としています。CI開発は、ブランディングファームが得意とする領域ですが、佐藤氏のCI開発アプローチには少しオリジナリティがあります。

CIは企業理念を可視化したものです。しかし佐藤氏の手がけるCIは、そのCIがメディアを介したコミュニケーション上、どのように見えるかまでも見据えた開発アプローチをとっています。ですから佐藤氏が手がけたブランドは、コミュニケーションでも突き抜ける強さがあります。

1.コミュニケーションを見据えたCI開発という独自性。

 

先日、佐藤氏が手がけた「GU」のCIが、ネット上で一部の人たちから叩かれていました。その内容はCIの形状や、デザイン手法が安直ではないか、といった内容です。しかし、CIは企業理念を可視化したもので、美しさを追求するものではありません。「GU」は低価格帯のファッションブランドなので、高級や洗練をデザイン文脈に入れる必要はない、というかむしろ入れてはなりません。

また「ユニクロ」とのカニバリを防ぐために、同色は使えません。一方で同じグループとしてユニクロとの親和性を持たせるために、CIのフォルムの文脈はシンプルで力強いモノである必要があります。その結果が、あのロゴに結実していると私は考えました。

こういったデザインのアプローチは、ブランディングファームがとるアプローチで非常にコンサルティング寄りといえます。佐藤氏はデザイナーですが、コンサルティングサービスを高度なレベルで提供しています。つまり経営者に伝えるためのデザイン言語を有した、優秀なコンサルタントであると言えるのではないかと思います。

2.デザイン言語を、経営者との共通言語に翻訳ができる。

 

デザイナーたるもの、「何でも自分でデザインしたい」というのが本音です。しかし佐藤氏は「デザインをしない」という選択肢も選ぶことができます。最近、話題になったヤンマーのブランディングでは、佐藤氏はプロデューサーとなり、奥山清行氏、滝沢直己氏にデザインを依頼しています。

壮大なブランディングプロジェクトで経営者が佐藤氏に望むことは、プロジェクトを成功に導くことであり、佐藤氏のデザインで会社を埋め尽くすことではありません。佐藤氏はその点を理解した上で、成功に向けて自分がやるべき役割を自らつくっているだと受け取りました。

3.プロジェクトをプロデュースできる。

 

つまり佐藤氏は「経営者とも面と向かって話ができ、企業戦略に基づいた独自のデザインワークを推進するコミュニケーション力を兼ね備え、あらゆる手段を用いて、そのプロジェクトを成功に導くことができるクリエイター」と言えます。従来で言う「デザイナー」の枠を超えた、「企業ブランディング・コミュニケーション成功の請負人」としてのこれまでの実績こそ、経営者が佐藤氏の前に行列をつくる理由なのではないでしょうか。

室井 淳司(アーキセプトシティ 代表/エクスペリエンスアーキテクト)
室井 淳司(アーキセプトシティ 代表/エクスペリエンスアーキテクト)

1975年広島県生まれ。2000年東京理科大学理工学部建築学科(建築意匠専攻)卒業後、博報堂入社。空間開発チームに所属し、企業空間・店舗ブランディング、商品開発、プロダクトデザイン、体験コミュニケーションクリエイティブ業務に従事。2007年空間ブランディングを実行する社内組織、「博報堂エクスペリエンスデザイン」を発足。 2009年ミラノサローネサテリテ参加。2011年金沢美術工芸大学非常勤講師。 2012年博報堂史上初めて、広告制作職外からクリエイティブディレクターに当時現職最年少で就任。 2013年博報堂を退職し、空間クリエイティブ・デザインファーム、アーキセプトシティ設立。2013年4月より博報堂最年少フェロー。表参道布団店 チーフクリエイティブオフィサー。

Red dot design award best of the best 2011/JCD best100 2011.2012/DDA award 2008.2009.2010.2011、Good design award 2009.2011.
デザインと仕組みのかけ算で、デザイナーが担うべき役割を広げる。

室井 淳司(アーキセプトシティ 代表/エクスペリエンスアーキテクト)

1975年広島県生まれ。2000年東京理科大学理工学部建築学科(建築意匠専攻)卒業後、博報堂入社。空間開発チームに所属し、企業空間・店舗ブランディング、商品開発、プロダクトデザイン、体験コミュニケーションクリエイティブ業務に従事。2007年空間ブランディングを実行する社内組織、「博報堂エクスペリエンスデザイン」を発足。 2009年ミラノサローネサテリテ参加。2011年金沢美術工芸大学非常勤講師。 2012年博報堂史上初めて、広告制作職外からクリエイティブディレクターに当時現職最年少で就任。 2013年博報堂を退職し、空間クリエイティブ・デザインファーム、アーキセプトシティ設立。2013年4月より博報堂最年少フェロー。表参道布団店 チーフクリエイティブオフィサー。

Red dot design award best of the best 2011/JCD best100 2011.2012/DDA award 2008.2009.2010.2011、Good design award 2009.2011.
デザインと仕組みのかけ算で、デザイナーが担うべき役割を広げる。

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