企業内で急ピッチで進む事業継続計画の修正
東北地方太平洋沖地震では、3月13日にフランス大使館の在日フランス人に対する避難勧告が出た直後に、多くの外資系企業が一時的に関西や本国へ退避する例が後を絶たなかった。
外資系企業ではBCP(事業継続計画)を予め策定していることが多く、その中の避難計画では一時的に完全撤退するプランが含まれている。あまりにも整然と行われたため、実際3月中頃から急激に外国人が首都圏からいなくなった。
続いて、消耗品を始め、食品、油、乳製品、水、電池など、ありとあらゆるものが市場から無くなり、首都圏はパニック状態となった。
その後も、計画停電や原発・余震リスクにさらされ、さらに今はピークカットという電力供給不足に対する対応や30年以内に87%の発生確率と言われる東南海地震のリスクにも対応しなければならなくなった。
数カ月前には、やっと景気が持ち直し始め、4月以降は上向きに転じると楽観視していた企業も多くあったが、3.11の地震で全てが台無しになったばかりでなく、日本の企業の組織運営にも大きな変化が訪れている。
一定の危機レベルでの完全撤退、本社移転計画や工場の再構築、工場内遊休施設の転用、建物・設備の耐震構造化、地震保険への再整備などが企業内で急ピッチに進められているが、天災地変に伴うリスクの脅威と影響に経営者が目を覚ました感は否めない。
計画の中身は発想力と時間で決まる
例えば、避難計画完了は発生から72時間以内、と決めておく。これ以上遅ければ二次災害を回避できなくなる可能性が高くなるからである。実際、東北地方太平洋沖地震でも3月14日までに避難していた外資系企業は多かった。
企業の中では多くの機械・機器が整備されているが、それらの一部が問題を起こしても全体が機能停止にならないようシステムを設計するフォールトトレランスが見直され、さらに、企業や組織が事業を停止してしまうような事態に直面したときにも、受ける影響の範囲を小さく抑え、通常と同じレベルで製品・サービスを提供し続けられる能力であるレジリエンシーが脚光を浴びている。
しかも、これらの計画は、本来1年くらいかけて慎重に策定を進めていくことが一般的だが、どこも4カ月~最大6カ月程度の短期間で行うことを前提としているから尋常ではない。
また、フォールトトレランスもレジリエンシーも対応力と復旧力が要となっているが、そこには社内の潜在的リスクシナリオの抽出に対する発想力が重要な鍵となっている。
リスク発生後の影響は企業によって様々だが、どのようなリスクが顕在化するかを正確に発想できれば、ピンポイントで対処可能となり、事業継続計画の有効性も高くなる。
そこで、潜在的なリスクシナリオを確認するため、現実的な模擬訓練を実際に行って検証を始めた企業も少なくない。
大企業が、天災によって、何千億円、何兆円という損失を計上する中、新たな危機管理計画であるフォールトトレランスやレジリエンシーという概念は、どこまで企業を救うのか興味深い。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第24回 「復興、再生の強い意思を胸に、日本人ひとり一人が行動を始めることが重要」(4/28)
- 第23回 「日本が変わるために、まずは原発被災者を救済することが先決」(4/21)
- 第22回 「『スパゲティウエスタン』化する原発問題」(4/14)
- 第21回 「『今そこにある危機』を再認識する」(4/6)
- 第20回 「Emergency Plan(緊急対応計画)を持たない日本の孤立化」(3/31)
- 第19回 「危機管理の原則はサバイバル 最終的には自身で判断を」(3/23)
- 第18回 「災害時の企業広報と経営トップの心構え」(3/14)
- 第17回 「米国で見た災害時の企業のCSR活動」(3/10)