【前回のコラム「弱小書籍編集部がベストセラーを連発するまで(2)」はこちら】
話は変わるが、「餃子の王将」の大東隆行社長が何者かに射殺された。
実は私は、現存する唯一の王将本『なぜ、人は「餃子の王将」の行列に並ぶのか?』の編集者だった(大阪王将の本はあるが別会社)。この王将こそ究極の「製販一体」モデルで、ほかのファミレスチェーンと違って、セントラルキッチンを使わずにメニュー作成まで店長が行い、その地域にあった店づくりをする。
そんなユニークな業態で業容を拡大させていた最中だったこともあり、今回の事件は本当に衝撃的で残念でならない。特に本の編集にあたっては、大東前社長に7~8回は取材の機会で面会しており、個人的に非常に悔しい思いを抱いている。
一方で、今週この書籍を見たマスコミ関係者からの取材依頼や書籍紹介が殺到した。そこで即、重版を決定。この決断も「製販一体」ゆえにスムーズに行われた。
ここで取り上げたケースは、残念なことに不幸な出来事になってしまったが、書籍の著者や関係者が、社会的に脚光を集める(良いニュースであれば編集者としても嬉しいのだが…)タイミングで、既刊書籍であってもいきなり店頭で動き出すことが往々にしてある。その場合、まずは重版部数の決定が必要。
が、この事件の場合、その行方もどうなるかわからないし、痛ましい事件ではあるものの、他のニュースが次々と入ってくればメディアでの露出も減ってすぐに世間が忘れてしまう可能性もある。
しかしながら、アマゾンや特に王将の地元である大阪や京都といった書店にうまく納入できるあてがあれば、関心の高い人に重版分を届けることができリスクは軽減される。今回も、営業サイドが素早く各書店に案内を開始しスムーズに決断することができた。
このように書籍ビジネスにおける「製販一体」は厳しい経済環境を生き抜く上でも必要不可欠なモデルだ。もともと、私は編集者として何人ものベストセラー作家と仕事をしたこともあるが、その人たちは書店周りを積極的に行い、売り上げデータを分析し、なかには女性書店員一人ひとりにハグをして、店員のモチベーションを高めていた有名作家もいた。
また分野は違うが映画の世界でも名監督ほど営業重視。いまをときめく園子温監督は自分の映画の宣伝をするために街頭パフォーマンス集団とイベントを行ったし、2作目が公開される名キャメラマンにして名監督、木村大作氏は、自らのクルマに映画宣伝をペイントして日本全国キャラバンを行った。
結果、処女作の『劔の岳 点の記』は大ヒット。こうしたベストセラー作家や名監督を「1人製販一体」とすれば、もはや「製販一体」はヒットを生むための必要条件だ。
いままで作りっぱなしの編集サイド、売りっぱなしの販売サイドが一つのチームとなって「目標達成」を検討し、実現する。それが新時代の「書籍ビジネス」の形だ。私も、その組織作りの英断を下した経営トップの決断に応えていきたい。もちろんもう「左遷人事」などとは一つも思っていません(笑)。
プレジデント社 書籍編集部部長兼書籍販売部長 桂木栄一氏(かつらぎ・えいいち)
1965年神奈川県生まれ。90年早稲田大学社会科学部卒。同年プレジデント社入社。日本航空機内誌『アゴラ』編集部を経て『プレジデント』編集部。同誌副編集長、編集次長を経て、2010年より現職。『プロフェッショナルマネジャー』『鈴木敏文の「統計心理学」』『鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」』『成功はゴミ箱の中に』はいずれも10万部を超すベストセラーとなった。