【バックナンバー】
第1回 もはや家電見本市ではない!?-CESで体感したコミュニケーションの未来
第2回 展示の主役はやっぱりテレビ。
第3回 今年のCESを一言で表すならIoT
マーケティングに重要なAPIとオープンイノベーション
さて「CES2014レポート」は、今回で最終回です。前回、今年のCESを一言で表すなら「I oT」であるとお話しました。筆者が4日間の参加を通じて感じたことは、まさにモバイル、家電どころか、あらゆる「モノ」がネットに繋がることで価値を提供する未来(いや、近々未来)でした。
ネットと接続し提供する価値が主役
CESでは車、テレビ、白物家電、時計、体重計、血圧計、様々なウェアラブル機器は、スマートフォンやパソコンとの接続を通じて、もしくは自らがLTEなどの通信機能を持ち、インターネットに接続することで、本来それらの製品が持つ本質的な価値に付加価値を与えることに重きを置かれていました。
つまり、生活者は様々なプロダクトを利用する際のコンタクトポイントは、WEBダッシュボードやスマートフォン用のアプリケーションになると言うことです。
それはIoT時代のプロダクトマーケティングとは、製品そのもののデザインや製品が機能の他に、スマートフォン用アプリやWEBサイトのUI、UX、提供する機能がプロダクトの競争優位に大きく寄与・影響することを意味すると筆者は考えます。
今回のCESでは、プロダクト自体の価値はもちろん重要ですが、「ネットと接続して提供する価値」が主役であることが示唆されていました。
APIとオープンイノベーション
API(Application Programming Interface)…。この言葉、「アドタイ」読者には聞き慣れない方もいらっしゃるのではないでしょうか。従来、ITやネット業界の用語として使われている言葉ですが、IoT時代のマーケティング活動にとって非常に重要な言葉です。
APIとはソフトウェアの機能や保有するデータを、外部の他のプログラムから呼び出して利用するための取り決めのことです。
例えば、以前よりフィットネスの製品をCESに出展しているfibitは、彼らの製品であるウェアラブル端末や体重計などが全て、スマートフォンやパソコンと連携することが前提となっています。したがって、fitbitは自社のプロダクトと連携するスマホアプリやWEBサービスを提供しています。
しかし、それだけではなく、ウェアラブル端末やネットに繋がる体重計を制御するために必要な機能をAPIという形で提供しています。すると、fitbitを使ったWEBサービスやアプリを作りたいと思う第三者(サードパーティー)が、提供されるAPIを利用して様々なWEBサービスやアプリを作ることになり、fitbitで利用できる多くのネットサービスが誕生しています。
冒頭で、プロダクトの価値はネットと接続して提供する価値が主役であるとお伝えしました。Fitbitは、APIを公開することで、第三者の力により、その価値を高めているのです。
fitbitだけがAPIを活用して価値を高めているわけではありません。筆者はCESに出展する多くの企業にAPIを提供しているか?と質問をしていたのですが、ほとんどの企業がAPIを何らかの形で提供し、第三者によってさらなるプロダクトの価値を高めていました。
そして、もうひとつ重要なのがオープンイノベーションな考え方です。オープンイノベーションとは、簡単に言うと「自社内と外部のアイデアやサービスを組み合わせることで、革新的な価値を創出する」という考え方です。
プロダクトの価値を左右するプロダクトのデジタル・コンタクトポイントにおいて、企業がプロダクトのAPIを提供し、サードパーティーがAPIを活用してデジタルサービスを提供する。そして、プロダクト側とデジタルサービス提供側の双方にメリットのあるビジネスが生まれる仕組みこそ、オープンイノベーションな考え方なわけです。
AT&Tは、Developer summitの中で、すべてのモノがコネクトされる未来のビジネスを創出する上で、APIがキーとなると考えています。そして、APIを活用して新しい価値を早く提供するために、年間25回のハッカソンを行い、外部のアイデアによって500のアプリケーションを世に送り出しています。
まさしくネットビジネスの考え方そのもの
さて、長々と書いてしまいましたが、APIやオープンイノベーションな考え方というのは、実は新しい考え方ではありません。まさしく、ネットビジネス、WEB業界はAPIやそれらを活用して新たなサービスを生むオープンイノベーションな考え方で成り立ってきたのです。
つまり、全てのモノがネットにつながり、デジタルのコンタクトポイントがプロダクトの価値に影響する世界とは、全てのネットに繋がる可能性のあるプロダクトにとって、ネットビジネスモデルを取り入れたプロダクト設計やサービス設計が競争力に直結する未来を指していると、筆者は考えるのです。
森 直樹(もりなおき)
電通 コミュニケーション・デザイン・センター
プロデューサー・事業開発ディレクター。
光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。デジタルとテクノロジー活用による広告キャンペーンソリューションの開発に従事。最近では、マラソンをRFIDとSNSで拡張する「SOCIAL_MARATHON」をプロデュース。さらに、デジタルによる事業領域のイノベーション支援に取り組んでいる。日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の幹事(モバイル委員長)、著書に「モバイルシフト(共著)」等。