“Fire & Forget”理論が語るディスコミの影響

ITの進化がコミュニケーションを風化させる

“Fire & Forget”とは、米国が誇る巡航ミサイルの性能の良さを説明する言葉として著名である。発射ボタンを押しさせえすれば、後は忘れていても標的に当たる、との趣旨だが、最近では全く違う意味で使われることがある。この10年でITの進化は目を見張るものがあるが、その中でもE-mailの台頭は、コミュニケーションのあり方を一変させた。伝えたい時、場所を選ばず、送信さえすれば相手が好きな時、場所で内容を確認できる手軽さ、便利さで世界を席巻した。そのうち会話は忘れ去られ、E-mailを発信すれば、後は読むかどうかの責任すらも相手次第、との間違った考え方まで生まれ、それを皮肉り、この言葉が使われるようになった。E-mailは、膨大な情報の伝達や意見交換という意味では非常に有効であるが、相手の理解を引き出し、真意を汲み取る非常に重大な局面では会話の比ではない。

先日、ある企業のプロジェクトでリーダーがスタッフに「●月○日にメールで指示した件はどうなっている?」と聞き、スタッフは「最近まで海外出張中だったもので、まだ全てのE-mailを読み切れてなくて……」とできていないことを詫びていた。あたかもスタッフが一方的に悪いようにみえるが、本来逆である。電話一本上司が部下にかけていれば出張で不在はわかり、他のスタッフに指示できたはずである。このような事態が社内だけでなく、ステークホルダーに対しても当然のように行われている。

ある会社のスタッフと話した。彼女は上司からクライアント企業に電話をかけ、面談のアポ取りを依頼された。できないと断ると、相手との会話を想定したコールスクリプトまで渡されたが、結局電話をかけることはなくE-mailを送信したという。相手との会話ができない人が増えてきていることに愕然とした。本来、ステークホルダーダイアログでの双方向の意見交換こそCSRの基本だが、企業側の押しつけになってはいないだろうか?

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

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