編集者よ、対話をしよう

【前回のコラム「社外文書の校閲――間違えたらアウト!の要素と対策」はこちら】

かつて編集者は編集技術や作法を、上司や先輩あるいは取材先などとの様々な対話を通して学んでいた。
Webコミュニケーションが主流になり、他者と直接対話する機会が減る中で、編集者の学びを考えるにあたり、「対話」を取り戻すことは大きな鍵を握っているように思う。
そこで、3年前、NHKで放映され人気を博した、ハーバード大学、マイケル・サンデル教授の『白熱教室』、の解説者として、また自身も対話型講義を実践し、実績を上げている千葉大学の小林正弥先生と、編集者であり、書き手であり、そして考える力を身につけさせるワークショップで教育する立場にもある山田ズーニーさんのお二人に、「対話」の効用について語ってもらった。

ひとつの結論を導く必要はなくお互いの違いを認めることが大切

———まず初めに、対話型講義の現場でどのようなことが起きているのか伺いたいのですが。

小林 正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授

小林:対話型講義というのは、対話を通じて一人ひとりが自分なりの考え方を発展させていくものです。考え方の中身は学生によって違いますが、その考え方を形成していくプロセスを、それがどういう方向であれ、教師は対話を通じて手助けしていきます。それにより学生たちは、対話をしながら自分の内なる思いを発見することができます。それは自己の成長において非常に重要なことでして、それを積み重ねて発展させていくと、やがてその人の心が確立し、個性になって行きます。

山田:私が行っているプレゼンテーション技法の講義は、小林先生の対話型講義とは少し異なるかもしれませんが、学生が行ったプレゼンに対し、学生たちが相互にコメントを返すという講義スタイルです。講義の中で発表した人の意見が自分の考えと一致していれば共感を抱くことができますが、考えが一致しない場合も当然あります。その時に、無理に結論を一致させようとすると、どうしても相手の非を指摘したり、批判したりするコメントになります。でも私はそれを認めません。学生たちには批判をさせないよう指導しています。

どんな人の表現や文章にも一ヵ所くらい面白いところやキラリと光る部分があって、そこをピックアップするように促します。すると、それぞれの思考がひとつに収束することなく、あちらこちらに散らばっていき、最後にはクラスの学生の数だけさまざまな考え方が生まれます。

小林:それは私が教室でやっていることと同じことです。学生が意見を言うと、間違えていたり、論理的に筋の通っていないことがあります。そのとき私は間違っているとは決して言わずに、この学生が本当に言いたいことはこういうことだなと、ピンポイントで見ます。学生の発言のどこにスポットを当てるべきかを見極めて、それを私の言葉で置き換えるんです。

学生が素朴に言ったことのポイントを掴んでわかりやすく言い換えて、ではこの点について他の人はどうかな?と問いかけていく。するとそこからさらに議論が発展するし、発言した学生本人から見ると自分はこんなにいいことを言ったのだと思えるわけです。

山田 ズーニー(やまだ・ずーにー) 文章表現/コミュニケーション・インストラクター

山田:多くの人は、議論というのは最終的に意見が一致しなければいけないという誤った認識を持っているのではないかと思います。講義でクラス全員がプレゼンをすれば、その中には自分の考えと違う、気に入らない意見が当然出てきます。

でも、自分とは違う考え方の人にも、その人が歩いてきた道のりがあるわけで、その道筋がわかれば、その人がなぜそう言っているのか、意見の背景が理解できます。そこが対話の最も面白いところであり、多様性がわかっただけでも対話の意味があるのです。でもなぜか結論を一致させようとする人がいて、一致しないと自分が否定されたように感じて傷ついたり、相手を自分の側に持ってこようとしてしまう。その結果、対話が自由でなくなり、楽しくなくなる気がします。

小林:対話型講義のポイントもまさにそこにあって、ひとつに合意する必要はありません。対話型講義を始める前は、私の信じる主義・主張に共感する学生が増えるとうれしかったのですが、最近は気持ちが変わってきました。

対話型講義では私とは別の考え・立場の人がいてくれないと困るわけで、そういう学生たちにがんばってもらわないと講義が成立しない。だからそういう人がいない場合は、私はあえて普段とは違う立場に立つんです。そうすると複数の考えが出ます。その多様な考えを持った人たちがお互いを尊重しながら議論することによって、哲学の本に出てくるような議論が実際の教室でできるわけです。

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宣伝会議 編集会議編集部
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