筆者は1982年に新卒で総合広告代理店に入社以来、ビール・飲料・化粧品・食品などの大手広告主さまのマス広告キャンペーン、商品開発、番組企画、音楽イベント、ダイレクトマーケティングなど当時の代理店で経験できる様々な仕事をさせてもらった。
そして96年にはインターネット広告のメディアレップを立ち上げることとなり、ネット広告の黎明期から18年ネット広告とデジタルマーケティングに携わり、その過程ではテクノロジーの導入や自前のシステムとしての開発にも関与してきた。
コラム第1回のテーマは「広告・マーケティングの本流こそデジタルを取り込め!」。このテーマを設定したのは、これまでの経験を経て、今こそマス広告やブランディングコミュニケーションを経験してきたことをデジタルマーケティングの普及に最大限に活かそうと思い至ったからだ。
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筆者はデジタル知見を活かすことが広告マーケティングの本流を最適化し、その改善効果は非常に大きなものになると確信している。
デジタルマーケティングはネットの世界に閉じたマーケティングではなく、マス/リアル/デジタルのすべての領域の最適化に資するものである。特に巨額のコストをマス広告に投じている広告主こそ、デジタルの知見を取り込む必要があり、その期待値は極めて高いはずだ。
このコラムでは、本流のマーケティングの傘の下にデジタルを取り込んで、マーケティング全体を最適化するという具体的な試みについて提案しつつ、次世代マーケティング部への機能変革を提唱してみたいと思う。
多くの企業の宣伝部が、デジタルマーケティングの急速な進化をキャッチアップできていないと感じていると思う。またデジタルはダイレクトマーケティング事業を行っているネットマーケティングのもので、コンバージョンやCPAなんていう用語はよく分からないし、組織的にも分離しているので融合は難しいと考えているだろう。
アドテクノロジーのベンダーが次々に登場してくる。しかし筆者は、今必要なのは『アドテク』ではなく、『テクアド』、つまりテクノロジーを駆使できるテクノロジーアドバタイザーだと考える。乗りこなすドライバーがいないのに、次世代エンジンを搭載した新しいクルマがどんどん生産されている現況を見るに、マーケティング機能の再編に広告マーケティングの本流にいる宣伝部が今こそ主導権を握っていくべきだと思う。
「経験と勘」の広告を、「データドリブンなマーケティング」に転換するためには企業内の既存組織に偏在した機能を再編しなければならない。
例えば、企業がデータマーケティングを推進するために必須のDMP(データマネージメントプラットフォーム)を導入するとなると、広告を買う部門、CRMを担当する部門、Webサイトを運営する部門、ソーシャルメディアに向き合う部門、そして基幹システムを運用し、売上データや顧客データを保有する情報システム部門が連携しなければならない。
企業によってどこが主導権をもって連携統合するかはそれぞれのやり方があるだろうが、いずれにしても事業部横断、ブランド横断できる部門が先導しなければならない。
こうした場面に、広告を買う部門である宣伝部も主導権をもって自らの機能再編のために手を上げるべきである。
その意味で、宣伝部が主導している「広告マーケティングの本流」の傘の中にデジタルを取り込むことを本格的に始動しなければならない。
こうした動きは米国では既に本格化している。それはカンファレンスイベントの動向に表れている。毎年秋ニューヨークで行われるADWEEKは、そもそも広告マーケティングの保守本流のイベントだが、デジタルマーケティングをどんどん中に取り込んで、丸々一週間フルコンテンツになる大盛況となっている。
昨年のADWEEKのバズワードは、Programmatic up-front。つまり「アップフロント」(テレビ広告枠の先付け)という既存マス広告ビジネス用語に、プログラマティックというアドテク用語が融合している。(この用語は別途解説する。)
広告ビジネスの本場ニューヨークで当たり前にアドテクを使いこなす方法が議論されている。一方、テクノロジーオリエンテッドなカンファレンスイベントはセッション数が少なくなっている。ある意味役割を終えつつある。
筆者は常々、「デジタルマーケティング」とは、「デジタル施策によって初めて得られるデータやファインディングを駆使して、マス・リアルを含めマーケティング全体を最適化する試み」と定義している。しかしデジタルと形容詞がつくとどうしても特定の専門領域の話と理解されてしまうケースが多い。
日本では、マーケティングというワードは「広告・販促」のことと非常に狭義に解釈される。そこにデジタルという形容詞をつけるとさらに狭い領域の話になりやすい。
要はマーケティング活動が、デジタル(データと知見)によって、次世代マーケティング活動に変革することを目標に、知見の取り込み方や人材や組織を議論し、推進することが大事である。できるだけ具体的にそうした方法について書いてみたい。
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