矢野経済研究所では、次の調査要綱にて国内のビジネス分野向けライブ映像配信サービス市場の調査を実施した。
1.調査期間:2010 年 11 月~2011 年 4 月
2.調査対象: 国内ライブ映像配信サービスのプラットフォームベンダ/サービスプロバイダ/ネットワークカメラベンダ、ならびに同サービス導入先として国内の民間企業・団体・公的機関等
3.調査方法:当社専門研究員による直接面談及び、電話・e-mail 等によるヒアリングを併用
ビジネス向けライブ映像配信サービス市場とは
本調査におけるライブ映像配信サービスとは Ustream、ニコニコ生放送、JStream、Stickam 等、ならびに従来のネットワークカメラ等のプラットフォームを利用したライブビデオストリーミングを指す。またビジネス向け業務分野としては、広告・宣伝・プロモーション、IR(投資家向け広報活動)、営業・マーケティング支援、人事・人材採用、企業内コミュニケーション、従業員教育・研修、コールセンター業務の主要 7 分野を対象とする。
調査結果サマリー
ライブ映像配信サービスは既存メディアと併用され、新たな広告・宣伝・プロモーション戦略を創出
企業はかつてのように既存のマスメディアだけに頼らず、ライブ映像配信サービスを取り入れることで広告宣伝費の費用対効果を模索し、自社の販売促進活動や広報・IR(投資家向け広報)活動を見直し、再構築していくことが推測される。
ライブ映像配信サービスは個人からビジネス需要へ
ライブ映像配信サービスはもともと監視カメラの延長線上のアプリケーションとして活用されていたが、2010 年に Ustreamが注目され、その後一般ユーザの間にも普及した。2011 年には企業や自治体が同サービスを導入し始めるなど、ビジネス需要が創出され始めている。
ビジネス分野向けライブ映像配信サービス市場規模は 2020 年度に 7,442 億円にまで急成長
2010 年度のビジネス分野向けライブ映像配信サービス市場規模は 6.4 億円を見込む。2020 年度には7,442 億円となり、業務分野別では「広告・宣伝・プロモーション」が 4,640 億円と全体の約 62%を占めると予測する。
調査結果の概要
1.ライブ映像配信サービス市場の背景
これまでもネットワークカメラ(IP カメラ)を利用したライブ映像配信サービス事業は行われていたが、その多くは店舗モニタリング、株主総会中継、セミナー配信や携帯電話との連携によるホームセキュリティ等、監視カメラの延長線上のものが多かった。また用いられるカメラは業務用 IP カメラであった。
2010 年に入り、Ustreamが注目されると状況が変化した。Ustreamはインターネット上のサーバに不特定多数のユーザ(利用者)が投稿した動画を、不特定多数のユーザで共有し、視聴出来るサービスである。一般ユーザがスマートフォンのカメラやPCのWebカメラ等を利用してライブ映像を撮影し、投稿、配信でき、急速に普及した。画質レベルは高くはないものの、リアルタイムゆえの楽しさや機動性が人気を呼んだ。こうしたライブ映像はかつての監視カメラの延長線ではなく、個人の手によるライブIP放送のようなものになった。
2011 年の東日本大震災時にはテレビ放送キー局は、テレビ放送の受信が難しい視聴者に向けて情報番組をライブ映像配信した。一方、他にも Ustreamや JStream、ニコニコ生放送等のライブ映像プラットフォームを利用した配信サービスがビジネス分野で普及しつつあり、企業や自治体に導入する動きもある。
2.ビジネス分野向けライブ映像配信サービス市場の展望~2010 年度見込み、2020 年度予測
2010 年度のビジネス分野向けライブ映像配信サービス市場規模は 6.4 億円を見込む。業務分野別に見ると「広告・宣伝・プロモーション」が 5 億円で、全体の 8 割近くを占める。これ以外の業務分野における活用は 1 億円程度である。2020 年度の市場規模は 7,442 億円にまで急拡大していくものと予測する。業務分野別では「広告・宣伝・プロモーション」が4,640億円と全体の約62%を占め、同業務分野の需要増が今後10年間における急激な市場成長の主因となると推測する。
この背景には広告宣伝費(販売促進費)の費用対効果への取り組みの活発化が挙げられる。世界的な経済不況後、昨今では国内景況感もやや回復傾向を示していたが、予期せぬ大震災の影響を受け、企業広告の予算は今後削減されていく可能性が高い。
そうしたなか、今回の災害時に情報ツールとして活躍したソーシャルメディアや、テレビ局によるライブ映像配信サービス等は既存メディアと併用され、今後、視聴者にとってより有益な、新しいメディアになるものと考えられる。一般企業や自治体なども撮影代行や配信代行のようなアウトソーシング(外部委託事業者)を活用したとしても、これまでの既存マスメディアを利用するよりは低コストですみ、且つ多くの視聴者への情報配信サービスを行うことが可能となる。
企業はかつてのように既存のマスメディアだけに頼らず、ライブ映像配信サービスを取り入れることで広告宣伝費の費用対効果を模索し、自社の販売促進活動や広報・IR(投資家向け広報)活動を再構築していくと推測される。こうしたことから、ビジネス分野向けライブ映像配信サービス需要は拡大していくものと予測する。