佐藤達郎(多摩美術大学教授/コミュニケーション・ラボ代表)
今年初めてカンヌライオンズを訪れている皆さんの感想を聞くと、だいたい2つの感想がないまぜになっています。
ひとつは、「たいへんに刺激になる」というもの。世界から集まって来る“見たこともない”やり口の数々は、我々の大脳とハートを刺激し、多くのヒントをくれるし、自分ももっとやらなきゃ!という気にさせてくれます。
もうひとつは、「情報が多過ぎて、何がなにやら困惑してる」といったものです。これも正直なところでしょう。応募数は3万点を超え、昨年で言えばブロンズ以上の受賞作が1,000点を超えています。そのすべてを見て理解しようとしても、どだい無理な話です。
カンヌ自体が“情報過多の時代”を如実に体現してしまっている。そんな風にも言えそうです。
僕がフィルム部門の審査員を務めた2004年時点では確か7部門だけ。10年後の今年2014年は、なんと17部門です。年々参加者も増え、贈賞式は長くなり、セミナー類も100近くを数え、どれもが魅力的に見え、下手をするとヘトヘトになりモミクチャになってしまいます。
では、どのようにカンヌと付き合えば、良いのでしょうか?以下4つのポイントにまとめてみました。
- 「今年のトレンドは、何だ?」と一言でまとめることにこだわり過ぎない。1,000点もの受賞作の傾向をまとめるキーワードなんて、無いと考えた方がいい。キーワードを口にするだけで、分かった気にならないように注意する。
- 受験勉強や資格試験ではないのだから、受賞作もセミナーも「たくさん知る」ことに注力し過ぎない。グランプリだけだって17作もあるのだ。ゴールド以上を全部見たって、おなかいっぱいで消化不良を起こしかねない。
- では、どうするか?グランプリやゴールドを中心に、多くの部門で受賞しているモノをチェック。その中でも、自分の気になるもの、なんかいいぞ、と思えるものに絞り、数作品について応募ボードをよく読み、解説ビデオを何度も見て深く知り、自分の仕事へのヒントを探る。
- 上記 3、 でチェックし勉強した作品に共通のトレンドはないか、自分なりに考える。ここでようやくキーワードの意味が出て来る。そのトレンドやキーワードについて、カンヌで出会った人たちと語り合って、さらに考察を深める。
いかがでしょうか?ちょっと講義っぽくなってしまったでしょうか(笑)。
「一般的なトレンド」にこだわり過ぎるな!と言いましたが、それでも自分なりに気になったヒントは、もちろんキーワード化してみるに越したことはありません。今回、僕が気になっていることも、少しだけご紹介しておきましょう。
キーワード①:「データ・クリエイティブ」
クリエイティブのコアにデータがある受賞作が目につきました。データから何かを発想するとかではなく、表現の大元にデータがある。
British Airのデジタルサイネージ“Magic Of Flying”は、まさにそうした受賞作。遥か上空を飛んで行くブリティッシュエア機からのデータに合わせて、小さな男の子が飛行機を追いかけ、飛行データまでが表示されます。
日本からの応募作で多くのライオンを獲得している“Sound Of Honda”も、データが大元になっている。データ・ジャーナリズムという言い方はかなり一般的になっているようですが、これらの受賞作は「データ・クリエイティブ」とでも呼べそうです。
キーワード②:「アクション・クリエイティブ」
何かを“伝える”のではなく、体感を伴って“行動させる”。そんな受賞作たちです。
ドイツの人権団体MISEREORの“Social Swipe”がまさにその代表格。ドイツから遠い外国で食事に困り人権を蹂躙されている子供たちを助ける寄付について、“呼び掛ける”のではなく、アクションを起こさせた。
街中に用意されたデジタルサイネージ。ビジュアルは縄の手錠をはめられた子供の手。ちょうど手錠の真ん中に、クレジットカードを通らせる溝があります。この溝にクレジットカードを通してスキャンさせることをSwipeと言うわけですが、自分のクレジットカードをSwipeさせると2ユーロ(約300円)が寄付され、ビジュアル的には縄の手錠が断ち切られます。
別のバージョンでは、Swipeすることで大ぶりのドイツパンから一切れが切られ、その一切れを子供の手が持ち去るというビジュアル。そのアクションで2ユーロが寄付されます。「彼らを助けよう!」と呼びかけたり伝えたりするのではなく、実感を伴う形で上手にアクションさせた「アクション・クリエイティブ」とでも呼べそうな受賞作は、他にも目につきました。
いかがだったでしょうか。この原稿を執筆しているのは、19日(木)の朝一。まだまだカンヌライオンズは続きます。とりあえずの、佐藤達郎なりの、速報でした。