――末永朗子(アサツー ディ・ケイ、ADKクリエイティブ宣伝部、クリエイティブキュレーター)
私のカンヌデビューは2009年。
前年に関わった仕事がショートリストに入ったというだけで、右も左も分からないままカンヌに。
2009年のカンヌライオンズいえば、日本がグランプリを2部門で獲得するなど活躍が輝かしく、同じ日本人と言うだけで誇らしく感じられたものです。
それから、月日が経ち今回が6回目のカンヌとなりました。
なぜ、みんなカンヌに来るのか。
それは、初めて来たカンヌ「ファーストカンヌ」で何を感じるか、が影響すると思うのです。私は当時、主に外資系クライアントを担当する営業局に所属し、日々の仕事はクリエイティビティからは距離があったのです。業務は忙しく、日々の仕事をこなして行くことは、ある種の充実はあり、責任も増えて来た時期でした、が。
ファーストカンヌで強く感じたのは、参加しているみんなのパワー。
会場やパーティで積極的に海外のクリエイターの話を聞いていると、皆が広告業界で働くことの誇り、自分のクリエイティブで賞を獲得するのだという欲望、世界に仲間がいて、同時に刺激し合うライバルの感覚を語ってくれました。
同時に、世界のトップレベルの受賞作、クリエイティブアイデアにも触発され、私だって同じ広告業界に従事しているじゃないか!と熱い気持ちになりました(笑)。
逆にカンヌは所詮、広告を営利的に集めるコンペティションだとか、海外ほど、日本の広告代理店、クリエイターの地位は高くないから、関係ないよ。という反応を示す人がいるのも事実です。個人的にはとてももったいない考えだと思います。
カンヌライオンズの登録費は、高い。でも充分にもとを取ることができるかどうかは、参加者本人次第です。
カンヌライオンズ期間中は、「裏カンヌ」(会場外での交流)があちらこちらで実施されています。カンヌ初めてで、クローズドのパーティなどに行く勇気がないという人は、カールトンの一階のバーかガターバーに行きましょう!ファウンダー、有名CCO、ECDなどベテランほどタフで毎晩のように遅くまで、受賞作の裏話をしてみたり、時には審査員が審査中の話をしてくれたり、面白いこと請け合いです。
ここカンヌで強く思うのは、やはり若手にどんどん来て欲しいということです。ガターバーで酔い潰れるのも若気の至り、美しき想い出となります。多分。
さて、カンヌライオンズ2014は4日目までに12部門のwinnerを発表し、前半のアワードセレモニーを終えました。今年、特筆すべきなのは日本のヤングコンペティション参加者がプリント部門とPR部門で最高賞のゴールドを受賞したこと。素晴らしい快挙です。おめでとうございます。
私が参加するようになってから、その年を代表してグランプリをいくつもとる作品、「Best job in the world」、「ROM」、NIKE「Fuel Band」、「Small business Saturday 」…。
昨年の「Dam way to Die」などがありましたが、今年はこれまでのところ、PR部門でもグランプリを獲得したアメリカのメキシカングリルチェーンCHPOTLEの”THE SCARECROW”がサイバー部門でも受賞し二冠に。こちらは、ブランデットコンテンツ&エンターテイメントでもゴールド以上が期待されます。
“Cultivate A Better World”をスローガンに、添加物の入った加工食品から自然な食文化への回帰をすすめるチポトーレが作ったアニメーションフィルムの成功からさらに発展。フィオナ・アップルの曲との相乗効果で一週間で500万以上の再生がされ、このストーリーをもとにしたゲームにも展開し、拡散。子供たちへの食育ツールとしても役立ちました。
この作品もですが、今年もソーシャルグットな流れは脈々とありながら、プラスアルファを強く感じるものが、高く評価されていると感じます。チポートレで言うと、ソーシャルグット+Education(教育)。
アウトドア部門グランプリの、審査員である樋口さんから審査を進めて行く中で審査委員長から指針として挙がったキーワードが Brave(勇気)だったと伺いました。
オーストラリアのANZ銀行の”GAYTMs”は、シドニーでのゲイ&レズビアンフェスティバルを祝うために、銀行のATMをゲイファッションを彷彿させるデコレーションを施し、名前も”GAYTM”に。明細がカラフルな紙で出てきたり、手数料はフェスティバルに寄付されるなど、今だ、同性愛者への偏見があるオーストラリアで且つ、お堅い銀行が実施する勇気が高く評価されたとのこと。これも言うならば、ソーシャルグット+Brave(勇気)がわかりやすく感じられる受賞作。
グランプリには惜しくも届かなかったものの、ソーシャルグット+Attitude(明確な意思や態度)を感じるゴールド受賞作も。オランダのterre des hommes という児童買春撲滅を訴える団体の”Sweetie”。児童売春の撲滅を目指す団体が仕掛けた、CGの「10歳のフィリピン人少女」。それまで年数名の検挙をこのオトリ映像で1,000人以上の検挙ができたそう。児童買春をなくすのだ、という強い意思と態度が伝わります。
カンヌライオンズ2014も残すところあとわずか。最終日のセレモニーのあとに最後の現地レポートお届けします。