PRに求められているクリエイティビティーー電通パブリックリレーションズ 井口理さん

井口理(電通パブリックリレーションズ)

今年のカンヌライオンズでは、相変わらずPRへの関心が高いようだ。まずは、今年初めて、PR会社がフェスティバルのオープニングプログラムを提供し、PR業界では話題となった。

オープニングには、それなりに注目を集めるプログラムが選ばれるわけだが、今回この名誉あるポジションを得たのは米大手PR会社ゴリン社だった(元ゴリン・ハリス)。
※最近リブランドし、社名を変更。

一方、PRカテゴリのエントリー数についても盛況が伺える。他の老舗カテゴリに物理的な数は負けるものの、1年前と比較しての伸長率は相変わらずのトップとなっている。

PRは今年1850件のエントリーを数え、42.7%の増加、続いてサイバー部門が39.3%、ブランデットコンテンツ&エンタテインメント部門が21.7%の増加となっている。

PRやブランデットコンテンツといった類いは、やはりコンテンツマーケティングやストーリーテリングへの注力といった時代の流れを映し出しており、その導線としてサイバーなども同時に上昇しているのかも知れない。

そんな追い風の中、今年のカンヌライオンズPR部門での受賞作一連を見て、その傾向を探ってみるに、大きく3つのグループに括れるのではないかと思う。

一つ目が、コーポレートブランディングへのフォーカス、2つ目が近年続くソーシャルグッドの流れ、そして最後がPR領域へのクリエイティブ要素の融合である。

①コーポレートブランディングへのフォーカス

今年グランプリを含むゴールド以上の受賞エントリーが14、重複受賞を除くと実際のエントリーは11に留まる。もちろん、昨年のような「Dumb ways to die」的な圧倒的強者がいればここのベースエントリー数はさらに圧縮されるわけだが、今年はどうも重複受賞も少なかったようだ。

その中でグランプリを獲得したのが米国のメキシカンファーストフードチェーンのチポートレ。

「The scarecrow(かかし)」が紡ぎ出す物語は、行き過ぎた加工食品の工業製品化への警鐘と、自社使用食材の全面自然回帰への宣言で、さらにこれからの子供たちへの啓発を目指してモバイル、ゲームなどの手法を取り入れながら感情的なエンゲージメントを構築し、食育を試みている。

その他、ゴールド受賞の「This is wholesome(これは健全だ)」は、米国のクラッシックなクラッカーの老舗Honey Maid社が、米国の進化する家庭像、つまり、同性愛者、異人種間婚姻、シングルファーザーの家庭など、いまだにアメリカ社会でも物議をかもす価値観を「健全だ」と肯定し、自らのブランドも進化していることをアピールしたキャンペーン。

単にダイバーシティを支持するような単純なキャンペーンではない。当然くるべき保守派からの反論を想定し、それをみごとにハンドリングしたリスクマネジメントの視点も忘れてはならないだろう。

ここはまさにPRの「アンコントローラブルな事象への対応」といった得意領域がうまく活かされた案件と言える。

それ以外にもVOLVOが特徴的なUSP(Unique selling point)を独特の実証実験で明らかにしていく連続シリーズなど、企業の事業領域のど真ん中に立ち戻ってその覚悟や姿勢を宣言するものが多かったように思える。

製品の比較優位点を単に伝えるのではなく、そこへの注力姿勢を力強く宣言し、他のどの企業にも負けない価値を提供していくという覚悟が生活者の共感を生み出しているのだろう。

実は私がPRカテゴリの審査員をした2012年のフィルム部門のグランプリが、表現は変われども、まさにチポートレの同内容のものだった。

そのような企業の社会的存在意義を真正面から宣言していくCMが、これまで広告的なエッジーさを追い求めていたフィルム部門でグランプリを獲るとは何が起こっているのか?と思ったのだが、今年はこのようなクリエイティブ的キャンペーンがPR部門の方でトップを獲ったわけである。

しかも、PR部門で初めてPR専門会社がグランプリを獲ったというのだから感慨もひとしおだ。

このような企業メッセージを継続的に強く訴えていくやり方は、ここ数年続いているP&Gの「Thank You, MOM」キャンペーンや、昨年のDoveの「Real Beauty Sketches campaign」といったところで強く継承されており、また今後も続くであろう。

次ページ 「ソーシャルグッドもまだまだ続く」に続く

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