7月9日に最大で約2070万件もの顧客情報漏洩が発覚したベネッセホールディングス。経営が行き詰る通信教育事業建て直しの切り札として、6月に日本マクドナルドHDなどの社長を務めた原田泳幸会長兼社長が就任したばかりだ。経営者としての力量が問われる場面だが、同社の対応について、危機管理広報の専門家はどう見ているのか。
7月2日に都内で開催された、ベネッセホールディングス経営方針説明会から。
発覚から約2週間で記者会見、対応スピードとしては評価
元ソニー広報で作家・ジャーナリストの城島明彦氏は、一連のベネッセの対応について次のように指摘する。「会員からの苦情が増えてから、記者発表に至るまでの期間が約2週間と短く、広報の危機管理としては評価できる。その一方で、4月か5月には情報が外へ持ち出されていたと考えると問題がある。特に、複数の業者を介す〝転売による個人情報ロンダリング〞という手口は、データを盗んだ本人が業者に直接売る従来型と違ってリスクも大きい」。
また、城島氏は「漏えい件数最大2070万という数字は、日本の総人口1億2700万人の16.3%(約6人に1人)、東京都の人口1300万人の1.6倍になるとの認識が欠けている」とも指摘しており、会見では危機意識の低さを感じさせる場面も見られたと警鐘を鳴らす。
広報の会見サポートに「甘さ」はなかったか
一方、7月2日には原田社長が初めてマスコミの前で経営方針について語る説明会が開かれ、原田社長は低迷する通信教育事業の巻き返しを強く訴えた。しかし、一連の報道によると、この時すでに会員からの苦情が相次ぎ、内部調査に着手していたという。
この時の会見を現場で取材した、ビジネスパーソン向けのボイストレーニングやプレゼン指導を担当する永井千佳氏は、本来こうした有事の際にトップを支えるべき広報の対応にも、疑問を感じたという。
「会場予定時刻を過ぎてからの入場になり、広報担当者らが慌ただしい会場の雰囲気も気にかかった。会見の冒頭では司会のマイクも、原田社長のマイクも音が入らないという二重のミスもあった。余裕のない状態であったことが想像できるが、どんなにネガティブな状況であっても会見に臨むトップを万全にサポートするのが広報の役目では」。
有事のときにこそ問われる、経営者やそれを支える広報の真価。就任早々の受難をいかに切り抜け、今後に活かす糧とできるかに、同社の未来がかかっている。
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