【前回のコラム】「ちっともコピーが選べない。」はこちら
武田さとみ(電通 第3CRP局 コピーライター)
生まれてはじめて企画が通ったCMは、
東京ガスさんのクリスマス限定CM、90秒の長尺ものでした。
「まほちゃんの作戦」と名付けられたこの企画、実ははじめはラジオCMでした。
それがテレビCMとも連動することになり、
幸運なことにラジオ・テレビ両方を担当させていただくことになりました。
このCMを作らせていただく中で感じたことが、3回目のテーマです。
人がたくさんいる…!
これが、CMの撮影現場に入った最初の感想でした。
監督さん、カメラマンさん、美術さん、スタイリストさん、キャスティングの方、
現場を整えてくださる色んなスタッフの方々…それぞれに役割があって、
ひとつのチームで、同じ方向に向かって日夜働いている。
そう思った途端、緊張がそのまま腹痛となって襲いかかりました。
現場最年少・経験最少のCMプランナーとしての撮影現場は、
わくわくとギュルギュルを引き連れて始まりました。
公園行ったら、ともちゃんがいた。
このCMには、主人公のまほちゃんと友達のともちゃんが出てきます。
ともちゃんは「ぶっそうだね」というセリフのみ、
ちびまる子ちゃんで言うとたまちゃんみたいな役どころです。
ところでラジオCMは、
「ここは宇宙です」と書いて宇宙の音をつければ宇宙になり、
「恐竜たちがやってきました」と書いてガルルルと鳴き声を流せば
太古の時代にタイムスリップできる、時間空間自由自在の音だけの世界。
ラジオCMのつもりだったわたしは、正直なところ、
ともちゃんの姿かたちのイメージもあまりないまま、
「まほちゃんに友達がいたら可愛いなあ~」くらいの気持ちで、
さらさらっとともちゃんのシーンを書きました。
そのともちゃんが、目の前で、動いている。実在している。
公園ロケで「ともちゃん入りまーす」という声とともに、
目の前にともちゃんが現れたその瞬間、鳥肌が立ったのを覚えています。
ともちゃん役の女の子は、この役をやろうと思ってわざわざオーディションを受け、
スタイリストさんやヘアメイクさんが、こんな格好がいいだろうと想像をめぐらせ、
その他たくさんのいろんな準備があって、ともちゃんがこの世に生まれました。
私は音だけで表現するラジオCMも大好きなので、
ラジオの方が楽チンだというつもりは決してありませんが、
絵にするということはつまりそういうことなんだ、と実感した出来事でした。
たくさんの人に支えられてできていて、
鉛筆を握った手で書いた文章から、ひとが生まれる。
自分はそういう仕事をしているんだ。
ものすごい仕事だと感動すると同時に、おそろしい仕事だとも思いました。
大変なことです。責任、重大です。
関わってくれた人たちみんなを、
幸せにすることは難しくてもせめて不幸にはしないように、
「この企画だったらまあやってもいいか」と思ってもらえるような、
関わってよかったなと思ってもらえるようなものを作らないと、
こんな素敵なことをやらせてもらっているんだからバチが当たる。
冬の寒い公園で、もう登れなくなってしまった遊具を眺めながら、
何年たってもこの感覚を忘れないようにしよう、と強く思いました。
こうして、
とてもたくさんのことを勉強させてもらった思い出深いこのお仕事で、
わたしは幸運にもTCC賞をいただくことができました。
この恩は、これからの企画で頑張ってお返ししていこうと思っています。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
最終回は、コピーライターという仕事について、
いまのいま、考えていることを書こうと思っています。
ラスト1回お願いします!
武田さとみ(たけださとみ)
電通 第3CRP局 コピーライター。1990年生まれ。神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。2014年TCC新人賞、読売広告賞協賛企業賞。宣伝会議コピーライター養成講座100期生、専門コース(谷山・井村・吉岡・照井クラス)4期生。つい先日、ラジオCM制作実践講座修了。
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一流を育てる実践型カリキュラム
多彩な修了生を輩出している本講座。広告クリエイティブだけでなく、インタラクティブ領域のコミュニケーション、マーケティングやメディアクリエイティブなど、さまざまな視点からコミュニケーションを構築する能力を養い、次世代のクリエイターを育てます。