惜しい!ネガティブ表現——言葉選びに《フラットな思いやり》を

【前回の記事「惜しい!「米踏む人」——《専門用語》は、通じる仲間内だけで使おう」はこちら】

ある駅のエレベーター内で見かけた、身障者向け開閉ボタンの掲示[写真左]。最後の1行だけ書き換えた[右/合成]と比べて、どちらが心地良いですか?

先を急ぐ駅利用者が、通常のボタンだと思ってこの開閉ボタンを押し、「なかなか閉まらないじゃないか!」と駅員にクレームをつけた——といった出来事が、この張り紙を作るきっかけとなったのかも知れませんね。だとすれば、こんなネガティブな表現を使ってしまったのも、まァ理解はできます。

でも、想像してください。大勢の人がいるエレベーターの中、あなたは車椅子に乗っている。「これを押したら時間が掛かる」と書いてある目の前で、敢えてそのボタンを押すのって、ちょっと心のハードルが高くなりませんか? どうせ同じ内容が伝わるなら、ポジティブ表現の方が、どの立場の人からもトゲトゲが和らぎませんか?

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この春頃から始まったベビーカーマークのキャンペーンでも、やはり言葉の使い方はポイントですよね。電車やバスの中で、赤ちゃんを連れている親は常に少数派ですが、そこで多数派の側が善意で「迷惑なんか我慢してやろうぜ」的なニュアンスの漂う言葉を不用意に使ってしまうと、やはり当事者は敏感に恐縮します。それが度重なると、気疲れから「もうこれ以上、子どもは産まなくていいや」という気持ちにも繋がってしまう——というボヤきを、実際に若いママ達から聞いたことがあります。(ベビーカーを使う側のマナー不足は、また別問題として。)

例えば「ベビーカーは《大切な命》を乗せています」という標語も悪くはないですが、「ベビーカーは《社会の宝》を乗せています」といった言葉を選べば、少子化に悩む日本社会の中で、育児ママやパパは、より“肩身の狭さ”を感じずに済むかも知れません。

社会の中で多数派の側に属する人が、少数派の側の人たちに対して何かメッセージを発するときには、やはり言葉の選び方にほんのちょっとの思いやりを!——と、「思いやり」という言葉を使うと、“上から目線”が気になる人もいるでしょう。でも、別に「思いやり」のベクトルは《上から下》とは限りません。《同じ高さ》にいる隣の人を気遣うのだって、フラットな思いやりですから。

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下村 健一(慶応義塾大学特別招聘教授)
下村 健一(慶応義塾大学特別招聘教授)

1960年東京都生まれ、東大法学部卒。TBS報道アナからフリーに転じ、「サタデーずばッと!」、「NEWS23」などに出演。2年間の内閣広報室審議官(民間登用)を経て、現在、関西大・白鴎大などでも教鞭を執る。主著『首相官邸で働いてみて初めてわかったこと』(朝日新書)。

HP:http://shimomuraken1.com/
twitter:ken1shimomura

下村 健一(慶応義塾大学特別招聘教授)

1960年東京都生まれ、東大法学部卒。TBS報道アナからフリーに転じ、「サタデーずばッと!」、「NEWS23」などに出演。2年間の内閣広報室審議官(民間登用)を経て、現在、関西大・白鴎大などでも教鞭を執る。主著『首相官邸で働いてみて初めてわかったこと』(朝日新書)。

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