話題は「土砂災害」から「デング熱」へ
広島土砂災害から3週間が経過し、新たな男性のご遺体が発見され、死者は合計で73人となった。あれだけ大きく報道され、土砂災害の怖さ、自治体や国の迅速な避難勧告のあり方、降雨量と急傾斜地崩壊とのリスク情報を合わせた災害予測の難しさなど、多くの課題を積み残した一連の悲惨な事故は、既に忘れられつつある。
8月20日に発生した広島土砂災害は9月10日で3週間を迎えたが、その間、ツイートされた総数は725,628件で、推移は以下の通りとなっている。
この後、8月27日に厚生労働省が戦後初めて海外渡航歴のないデング熱の国内感染を発表して以来、国民の関心は大きく「デング熱」にシフトした。ツイートは過熱し、現時点までの2週間で、総数も1,099,535件と「土砂災害」を大きく超える状況となっている。
現在も徐々にではあるが感染者が増加し、15都道府県で88人が確認されている。感染者が爆心地であった代々木公園を訪問後、各地へ戻り感染が確認されたことと、さらに、他の公園に飛び火したことで関心が深まったものと推察される。特に、新宿中央公園での新たな感染者が確認された9月5日では、一日で17万件以上のツイートがあった。
課題解決へ導く「スピンドクター」の役割が重要
デング熱の感染話題がツイートで大きく伸びた理由には、いい意味でのスピンドクター(情報操作者)が存在した。それは、全力での拡大阻止をコメントした東京都知事や所管行政の厚生労働省、さらに対策や冷静な情報提供を徹底した国立感染症研究所などである。
西アフリカで感染が広がっているエボラ出血熱では出所の怪しい情報がかえって事態を悪化させ、現地住民の不信感を募らせる、という危機を招いたが、日本ではその点、適切な情報処理ができたのではないかと考える。
その一方で、エボラ出血熱に関して言えば、危機的事態の風化を抑えているスピンドクター役は、世界保健機関(WHO)と国境なき医師団だ。対策の継続と現状への危機感を世界へ伝え続けている。
オバマ大統領も今月7日にNBCテレビの番組内で、「エボラ出血熱が、アフリカ以外の地域に感染が広がれば、ウイルスが変異してさらに感染しやすくなる可能性もある」と現時点での危機より深刻な危機に言及した上で、その対策は、国家安全保障上の優先課題と位置づける発表を行った。これもまた、スピンドクターとしての重要な役割である。
話を戻せば、いかなる情報も風化は避けられないが、誰かがスピンドクターとなってその情報を喚起し、確実な対策を現実の形に導くことが重要である。土砂災害に対する危機は今後も必ず発生する可能性のあるリスクである。風化させてはいけない問題であることを多くの国民が認識し、機会あるごとに声を上げて早期対策への道筋に光明を見いだす一助となってほしい。