フランスでは、コストパフォーマンスのことを「キャリテ・エ・プリ」と言って、レストランを評価する大切な指標の1つになっている。事実、ミシュランガイド・パリ版には東京版にはない「ビブ・グルマン」という評価基準があり、手頃な価格で優れた料理を出す店に、その称号を与えている。特別な日に高級店を訪れるのと等しく、日常的に行けるレストランにも、高い価値を見出しているからだ。その評価基準は比較的新しく、1997年からである。
その風潮は、日本にも見られる。最近、グルメ通の間で話題にあがる店は、大抵、コストパフォーマンス的にも優れた店が多い。例えば、一人1万円台で、3万円台の銀座の名店と変わらぬ仕事をしてくれる鮨屋とか。実際、今の若者たちは、クリスマス・イヴに派手なデートを仕込んだりはしない。なじみの店を定期的に訪れては、割り勘で楽しむ。コスパに優れているからこそ、気兼ねなく割り勘できるのだ。
日本には昔から「ハレとケ」という言葉があるが、今の若者たちの行動パターンは、特別な「ハレ」の日を盛り上げるよりも、日常の「ケ」を充足させる方へと向かっている。店側にとっても、年に一度訪れて、高いお金を落としてくれる客よりも、低額でも定期的に顔を出してくれる客のほうがありがたい。
そうした風潮は、何も飲食店に限らない。例えばファッション業界も、今や時代のすう勢は高級ブランド店より、ファストファッション店。それは、女性たちの行動パターンが、特別な一品よりも、日常的に買えて、それでいておしゃれも満喫できる方へと向かっているからだ。スウェーデン生まれの家具店「IKEA(イケア)」が脚光を浴びるのも、日常的に買える値段の割には、デザインやセンスを楽しめるからである。
特別な1日よりも、ちょっと素敵な365日。ミシュランガイド東京版に「ビブ」の評価基準が加わる日も、そう遠くはないだろう。