鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
スティーブ・ジョブズが大嫌いな言葉
マーケティングという職務は派手なイメージがありますが、企業の中で価値を明確に出しているかどうかというのはいまひとつ疑問があります。なにせ財務指標には投資と言うより経費として計上されるうえに、どんな業界でも明確にマーケティングのビジネスパフォーマンスを測れる基準はありません(少なくとも自分は知りません)。
自分もマーケターのはしくれではありますが、取引先のバイヤーの責任者には常に「こんな広告で本当に商品が売れるのか?」という顔で見られます。そういう人たちは、新商品の話は嬉しそうに聞きますが、マーケティングの話になると即座に退屈そうな顔をするのを何度も見てきました。
スティーブ・ジョブズもブランディングやマーケティングという言葉が嫌いだったそうですが、本来は企業や商品に従属すべき意味合いであるマーケティングが、あたかもそれ自体が独立して価値を持つように見えることを警戒していたのではないかと思います。アマゾンの本を読む限り、ジェフ・ベゾスもマーケティング担当者には常に厳しいそうですが、それだけアプローチに関して常にパフォーマンスを高めるような絶え間ない追及をしているという印象があります。このような厳しさはおそらく旧来のマーケティング組織にはなかったもののように思います。
グロースハッカーは単なるマーケターではない
グロースハッカー(growth hacker)は、最近よくデジタルのスタートアップ企業などで聞く職種で、ジョブズやベゾスがマーケティングという言葉で意味したかった役割と言うのはおそらくこれではないかと思えます。というのも自分自身も、この言葉を解説した本を書いたライアン・ホリディ氏がトラディショナルな意味でのマーケターだったことから、氏が感じた衝撃「グロースハッカーがいれば伝統的な意味でのマーケターは必要ない」に共感するからです。
グロースハッカーについての解説を読むと、AARRR(獲得、活性化、継続、紹介、収益)のようなマーケティングファネルとほぼ同義のステップをみていることから、マーケティングとやっていることは変わらないように見えます。しかしながら彼らが担当しているのは、商品そのものの普及や体験価値や改善であることに注意してください。
つまり、グロースハッカーそれ自体が製品開発、マーケティング、営業、カスタマーサービスのそれぞれの役割を持ちながらマーケティングファネルをドライブさせることにフォーカスしているわけです。