いま出版社は、雑誌のブランドやコンテンツを生かし、多岐にわたるビジネスに取り組んでいる。しかしその主軸になるのは、やはり雑誌メディアだ。出版社にとって、雑誌メディアの広告効果の測定、ならびに広告主への情報公開は、長年の課題とされてきた。広告主からの説明責任を求める声は、年々強まっており、その要望に応えられるようなデータの整備が、出版界にとって急務の課題となっている。そうした中、出版各社、ならびに出版界を取り巻く企業から、新しい動きが始まっている。「雑誌の力」を示すために始まった、新しい取り組みをリポートする。(「宣伝会議」編集部)
大手5社が初めて共同調査を実施
出版社はこれまでも、雑誌メディアの広告効果についての調査を重ねてきたが、それらはいずれも各社がそれぞれ独自の指標、調査設計を用いて行ったものだった。しかし、広告主からの要望の高まりを受け、出版各社も、統一の指標による広告効果の調査を行う動きが出てきている。
今年の9月から10月にかけて、出版大手5社(講談社、光文社、集英社、小学館、マガジンハウス)による、雑誌読者の広告接触や態度変容に関する共同調査が行われた。このプロジェクトは、女性誌の愛読者を指すネーミングとして、「マガジェンヌ」と名付けられている。「愛読者の特性を明らかにすることで雑誌の価値を再検証し、広告主や広告会社が雑誌メディアを選ぶ際の判断材料を提供することが狙い」と小学館広告局・シニアマネージャーの伊藤幾(ちかし)氏は話す(詳細記事)。
調査方法をリニューアル 雑誌ごとの効果を数値化
2000年より雑誌メディアの調査データ「マガシーンアド」を提供してきたビデオリサーチも、同サービスのリニューアルに着手する。そのポイントは、出稿した広告の効果を示すデータの拡充にある。
「これまでの調査では、それぞれの雑誌に出稿した広告がどのぐらい効果があったかを深掘りできておらず、現在の広告主企業が求めるアカウンタビリティーに対応できていなかった。調査費用の面や、純広告しか調査対象になっていないという点で問題もあり、有効活用されていたとは言い難い」と同社メディア事業局・新聞雑誌部課長補佐の山村麻紀氏は話す。
従来の調査は、回数や対象誌数が限られた中での事例の蓄積になっており、広告効果指標については、広告の注目や興味関心の喚起などにとどまっていた。そこでリニューアルした「マガシーンアド」では、従来の「広告接触率」「広告注目率」に加え、「購入・利用意向」や「実際に購入・利用に至ったか」までを設問に組み込み、広告の効果を浮き彫りにすることを目的にしている。さらに、これまで純広告のみだった調査対象を記事広告、タイアップ広告にまで拡大する。調査方法も、電話調査からインターネット調査に変え、回答の手間やスピードを改善、年4回だった調査を年12回に増やす。
また特筆すべき点として、雑誌名を明示して、掲載された広告の接触率など各種データが開示される点があげられる。これにより、同じ広告を複数誌に出稿した場合も、「どの雑誌で広告効果が高かったか」がデータ購入者に開示されることになる。
「このような方式でデータを提供すると、“雑誌の成績表”のように複数誌を比較できるようになる。それだけに出版界の中には、難色を示す人もいた。しかし今や、そのようなことを言っていられる状況ではないという認識に変わってきている。広告主の期待に応えられるような情報を提示することが、出版界全体に求められている」と山村氏。現在、調査データの販売先は、出版社を中心に広告会社、さらに広告主企業も想定している。従来の各社の独自調査は、実施できる余裕のある大手のみに限られていたが、中小規模の出版社にもデータを販売し、広告主のニーズに応えたいという。
業界全体で一体となった取り組みが求められる
また大日本印刷の関連会社、エムズコミュニケイトも、雑誌の広告効果測定サービスを来年1月より開始すると発表した。雑誌発売の前後にそれぞれ調査を行うことで、調査対象企業(広告主)やその企業の商品・サービスに対する、購読者の意識や態度の変化の度合いを数値化していく。
大日本印刷は業務・資本提携を行う主婦の友社の協力の下、女性誌をはじめとする雑誌の広告効果測定サービス提供を検討してきた。今回、購読者の意識や雑誌への関わり方など様々な調査を実施し、効果測定のベースとなる要素や考え方を抽出、効果測定の手法を構築した。今後は日本アドバタイザーズ協会とも意見交換を行い、測定手法のさらなる開発を進め、女性誌以外へも展開していく方針だ。
今回紹介した3つの事例は、いずれも今年始まったもの。これまでのように、各出版社が単独で調査を行い、データを公開するだけでは、広告主のニーズに応えることができなくなっている。雑誌メディアの強みと言われる読者との絆。その絆を活用した様々なビジネス展開には大きな可能性があるが、ベースとなる雑誌の広告効果を証明できなければ、そのブランドにも信頼性が生まれない。出版社だけでなく、出版業に携わる様々な業種の企業が一体となって、改めて雑誌メディアの力を伝えられるよう、努力が求められている。
(本日発売の「宣伝会議」11月15日号に特別企画「出版社のマルチデバイス戦略」掲載)