まったく甲斐性のない男が会社を立て直そうとした話

【前回のコラム】「コボちゃんと「驚きと納得」の間」こちら

30歳過ぎまで、飲み会の幹事を、一度もやったことがなかった。

というか頼まれたこともない。

前職の電通には「大学生時代は500人のイベントの幹事やってました!求心力には自信あります!」と豪語する自称お祭り男がゴロゴロしている。そんな男たちが「ふーん、で?それくらい普通だし」と扱われるくらい、お祭り偏差値が高い会社だ。

ぼくは、3人の飲み会すら仕切れない。

そう。ぼくには甲斐性がないのだ。

「中村くんって包容力まったくないよね」と何度言われたことか。

これはたぶん、ぼくが次男であることと、人を殺しそうな顔つきをしていることに大きく起因している。

部の部会や朝礼にも顔を出さず、面談も適当。「アワード獲って面白いもの作って、会社背負ってるからいいだろ」と、一匹狼のアウトロー気取りでいた。有名な「鬼十則」も、一則も知らなかった。会社のルールを逸脱し、いつも部長に迷惑をかけつづけていた。

これが後にメチャクチャ災いした、という話です。

PARTYという会社は、5年めに入った。
日本の起業は5年で85%が廃業、倒産するらしい。順調に経営を続けていけるのは、本当に幸せなことだ。2014年は、かねてからの目標だったニューヨークオフィスも始動し、売り上げも順調に伸びている。

しかし、そんな順調に4年間が進んだかといったら、まったくそんなことはない。

3年目に差しかかるあたりで、会社の地盤が揺らぐような大きな事件が起きた。ここでは詳しく書かないが、例えば、ゲーム「三国志」で君主が交代したり討ち取られたりすると、その軍の残存武将は忠誠度がダダ下がりになり、野に下ったりする。まあそういう風味の事件が起きた。

仕事でも大ピンチが重なり、プロジェクトメンバーのストレスも限界に達していた。

社員を三国志の武将とすると、全員の忠誠度はどう見ても20以下になっていた。短期間に「俺やめます」「私もやめます」が乱発した。「折り入ってご相談があります」的サブジェクトのメールが頻繁に届くようになった。折り入ってご相談があるくせに、メールを見ると「結論から申し上げるとやめたいです」と書いてある。
いや相談してねえじゃんと。
とりあえずメールを閉じ、心の電気も消す。

やばい。
このままじゃこの会社、空中分解する。

ここは、ぼくがなんとかしないと!
社員の心をひとつに取り戻さないと!

こ、この、飲み会の幹事すらまともにつとめあげたことのない、
包容力ゼロの、このぼくが。

ぼ、ぼくが……。

ゴフッ

次ページ「一方そのころ、ぼくは」

次のページ
1 2 3 4
中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)
中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ