作家・村上龍氏インタビュー「僕の疑問は『利益の確保』と『利益以外の価値観』とのバランスにある」

※本記事は広報会議2015年8月号の特集「経営トップは今、何を語るべきか」から抜粋して掲載しています。

2006年の『カンブリア宮殿』(テレビ東京)放送開始以来、MCを務めてきた作家・村上龍氏。月刊広報会議2015年8月号では、特集「経営トップは今、何を語るべきか」の中で村上氏にインタビューを敢行しました。
これまで450人以上の企業・団体のトップへのインタビューを通じ、 村上氏が見つめてきた「時代を生き抜く」企業トップの横顔とは?そして番組取材を通じて感じている、企業の広報担当者の印象にも迫りました。

 

「利益を確保する」「利益以外の価値観を持つ」

——番組では最近、必ずしも成長や利益だけを追い求める企業だけでなく、 地域活性化などの社会貢献を目指すような経営者も出演しています。利益だけを追い求めるような企業は、今の時代には必要とされなくなっているということでしょうか。

そこは非常に難しいところで、皆、経営者は「利益が最優先ではない」と言うんです。ただ、当然ながら、利益が出ないと企業はつぶれてしまう。「利益を確保する」「利益以外の価値観を持つ」という双方のバランスをいかに取っていくべきかということは、常に僕の中にある疑問なんです。

それには、まだ明確な答えがありません。利潤の追求以外にかけられるコストや時間の余力がどのくらいあるのかによっても違ってきます。従業員が20人ぐらいの企業で、年商3~4億円の企業であれば、あまりストックがないので、経営者としても冒険をしないといけない。ただ、年商4兆円ならストックがあるので、利益とのバランスを取るにしても、もう少し長いスパンで物事を考えられます。

サバイバルが難しい時代

——「いかに時代をサバイバルできるか」という点も番組のテーマの一つです。村上さんは、今の時代を生き抜くことができる企業には、どのような特徴があるとお考えでしょうか。

それが事業規模や業種、業態によって違うというのが、現代の特徴だと思います。「こんな風にすると、企業は 必ずサバイバルできる」という、最大公約数となる正解がない。同じ業種、業態でも、会社が蓄積してきたノウハウや知識で違いますからね。

会社が生き残るために、あらゆる会社に当てはまる“正解”のようなものがあれば、本当はすごく楽なんですよね。かつて高度経済成長の時代には、そういったいい加減なことがまかり通っていたと思いますが、いまやそのような時代ではなくなってしまった。 自分たちが蓄積してきたノウハウや企業と従業員との関係、市場の動向といった、様々なファクターが複雑に絡みあっている。

そこで、経営者が生き残るために取るべき戦略や戦術が、企業によってすべて異なっていると思います。そんな中で、企業は生き残るために、従業員に“やらされ感”がなく、どのようにすればモチベーションを高められるかを考えるわけです。

企業の規模によって、従業員とのコミュニケーションの方法は異なります。 番組では、カットされて使われないことが多いのですが、登場する経営者にも「視聴者が下手に真似すると、失敗してしまうでしょうね」と、よく言っているんです。

優れた広報は、権威を妄信していない

——月刊『広報会議』は広報・PRの専門誌ですが、村上さん自身は、企業の広報担当者にどんな印象を持っていらっしゃいますか。

僕が実際お会いしたり話したりした 広報の方はそれほど多くありませんが、 今の広報の人たちは、一昔前と比べて、はるかに優秀になっているんじゃないでしょうか。 顧客やマーケットと同じ目線でコミュニケーションできる人が増えていて、相対的にものすごく優秀になっていると思います。

相手の立場に立って、自分の価値観を相手に押し付けるよりも、周りの価値観に反応できる能力はひょっとしたら女性が向いているのかもしれないですね。おじさんはだめかもしれない(笑)。実際に、女性の広報の方は多いような気がします。 良い広報の人は、権威を盲信していない。時代に合わせて、広報も進歩しているなと思いますよね。

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