この連載は、全広連と宣伝会議とのコラボレーションの一環で発行した新聞「アドバタイムズ特別号」の記事の一部を転載するものです。新幹線開業で注目される北陸経済や、金沢の広告界・クリエイティブの今を紹介します。
新幹線開業で活況に沸く金沢で、その象徴とも言える商業施設がJR金沢駅構内の「金沢百番街」だ。3月14日の北陸新幹線開業と同時にファッションエリアをリニューアルオープン。昨夏に開設した土産物・飲食エリアとともに、北陸の玄関口の魅力づくりに一役買っている。
運営する金沢ターミナル開発の左近光治・取締役営業部長に開業後の手応えと今後のビジョンを聞いた。
新幹線開業前から売上が急上昇
金沢百番街は、「あんと」と「Rinto(リント)」と「くつろぎ館」という3つのエリアから成り立っています。あんとはスペースを拡張して2014年7月にリニューアルオープンしました。リントは以前からありましたが、北陸新幹線開業に合わせて大リニューアルしました。
これまでの金沢百番街のショッピングセンター売上の最高記録は、年始のバーゲン開始日である1月2日というのが通例で、歴代の売上ランキングは各年の1月2日が独占していました。それが北陸新幹線開業の3月14日以降、ランキングに食い込む日が現れたのです。
そして大型連休の5月4日、ついに歴代1位の売上を更新しました。
この日は兼六園や金沢21世紀美術館などへの人手も多く、開催中のクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ金沢」も来場者が12万人を超えたという発表があるなど、連休中は他の地域から非常に多くの方が金沢を訪れました。
来年の1月2日が果たしてどうなるのか、今から期待しているところです。
売上の面では、北陸新幹線開業前から上昇傾向にあり、「あんと」については2月の売上が1月を超えました。観光需要としても期待できず、日数も少ない2月が、年間トップの売上を記録する1月2日を含む1月を超えるというのは、通常では考えられないことです。
北陸新幹線開業を前に、テレビを中心としたメディアで金沢特集などが組まれていたことも後押ししたと考えています。それだけ開業を期待する人が多かったということでしょう。
3月14日の「リント」グランドオープンに合わせ、各出入り口に入館者をカウントする装置を取り付け、レジのデータからわかる購買数と合わせて購買率も検証しました。14日の全館入館者数は非常に多く、売上も高水準で、翌週の22日にはさらにそれを上回る売上を記録しました。
開業日は、新幹線の乗客に加え、新幹線や金沢百番街リニューアルの様子を見ようという地元の方が来館者数を伸ばしてくれたようです。北陸新幹線開業前後で、来館者数が前年比で15%から20%くらい伸びると予想していましたが、今のところ、その予想を大きく上回っています。
金沢の商業施設全体で盛り上げたい
商品ジャンルで見ると、開業当初は新幹線をモチーフにしたものが好調でした。売上の伸び率が良かったのは工芸品です。この結果を見て、金沢らしいものをお土産にしたいというニーズに応えられたと感じています
。私たちとしても、開業を前に各テナントやオーナーの方々に、地域の特色を生かした商品開発やパッケージなどで、金沢らしさや北陸新幹線開業をイメージした工夫をしていただいたほか、「あんと」の限定商品を用意してもらうよう依頼しました。
こうした働きかけに対応していただいたお店は売上を伸ばしていました。事前の入念な準備が売上の向上につながることが実感できました。
金沢駅前にはほかにも商業施設が出店してきています。ライバルという見方もありますが、私たちとしては駅前エリアで一体となって集客しようという考えのもとで、バーゲン開始日を合わせるなどの施策を行っています。
将来的には駅前だけでなく、中心市街地の香林坊地区なども含め、金沢全体でより多くの人に来ていただくための施策を、我々のような商業施設から実現できればと考えています。
館内スタッフの育成も重視しており、テナント各店のサービス診断なども導入しています。スタッフの方々へは、「皆さんは3つの看板を背負っているんです」と話しています。
3つの看板とは、自分の店と金沢百番街、そして金沢および石川県を指しています。
お客さまにとっては、接客の良し悪しはその店のイメージだけでなく、金沢自体の印象にもつながり兼ねないということです。
個々の店舗がどれだけ美味しいお菓子を置いていても、魅力的な商品を用意しても、それだけで売上が上がり、リピーターになってもらえるわけではありません。お客さまが何を求めて、何を望んでリピーターになるのかというのは、商品やセールスプロモーションの施策だけではなく、最終的には販売スタッフだと考えています。
日々のクレームの中で、最も多いのが接客対応についてです。この辺りを理解し、指導・教育ができているお店は良いスタッフも多いと感じます。私たちデベロッパーができることは限られていますが、永遠の課題として全館でサービスの向上を目指し、様々な取り組みを進めていきます。(談)