若林恵×北川竜也×ムラカミカイエ×京井良彦「Decoded Fashion!~ファッションとテクノロジーの新しい関係~」【後編】

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ファッション業界とIT業界のトップが集まり、ファッションの未来を共に考えるイベント「Decoded Fashion Tokyo Summit 2015」(デコーデッドファッション)が今年7月、東京で初開催された。デジタルテクノロジーの進展はファッション業界にあらゆるフェーズで抜本的な変化をもたらしている。雑誌『WIRED』編集長の若林恵氏、三越伊勢丹ホールディングスで新たな事業開発に取り組む北川竜也氏、ファッション・ビューティー分野に特化したブランディングエージェンシー「SIMONE」を率いるムラカミカイエ氏に、電通の京井良彦氏が「ファッション×テクノロジー」が向かう未来について聞いた。

デジタル化が入り込めないファッションの「聖域」がある?

京井:この話の流れの中ではすごく表面的にも思えてしまいますが、デコーデッドファッションでは、ハイテク素材や3Dプリンターを使った服づくりなど、テクノロジーが商品開発に及ぼす影響についても語られていましたね。日本はこの領域でも遅れているのでしょうか?

ムラカミ:遅れてはいませんが、問題はプレゼンテーションです。日本は化学繊維などの開発については世界トップと言っていいと思います。けれど、その媒介となるテクノロジーを扱う人と、ファッション的な感覚が、余りにも乖離し過ぎている。人がファッションに求めるものは、服そのものだけではない。つまり、皆が望むファッション的感覚というのはボタンひとつで柄が簡単に変えられるといったことではありません。着る人の心理にもっと目を向けた方がいいと思う。そこは、ファッションを深く知ることでいかようにも変わると思います。そのために、テクノロジーとファッションの人たちが一緒に取り組むことが有効じゃないでしょうか。

北川:そういうコラボレーションの接点になるのが、我々百貨店かもしれませんね。気をつけなければいけないのは、テクノロジーありきで、机上の空論で自分たちさえ使わないものをつくってしまうこと。ファッションに人が何を求めているのかに立ち返らないと、本当に必要なテクノロジーを選ぶことはできませんよね。

若林:未来というのは、おそらく僕らが想定していないやり方でやってくる。そこに面白さがあるんじゃないでしょうか。デコーデッドファッションのプレゼンを聞いて感じたのは、ソーシャル周りのデジタル化の話ばかりで、肝心のデザインのデジタル化は誰もしないんだな、ということ。今年5月にあるブランドのデジタル戦略をインタビューした時も、「デザインはデジタル化しないのか?」と聞いたんですが、「それはね、できないんだよ」とあっさり言われてしまった。その時思いました。ははーん、そこは聖域だから手をつけないんだな、と。今回も同じでしたね。デジタルで音楽は記述形式が変わり、出版も印刷を巡る記述形式が変わった。じゃあファッションでそれは何なのか? 型紙か? それはデジタルでできるんじゃないか、という話です。20年の歴史を持つアパレルメーカーなら、20年分の型紙を全部データ化してみればいいんです。お客さんのフィジカルデータは取っているのに、それとマッチングさせるものがデジタルになっていなければ意味がない。実はそこじゃないんですか?

ムラカミ:その話はそれ以上踏み込むと…(笑)。いや、実際、そこが次のファッションの一周目なんですよ。

北川:そうですね。僕もあまり深入りしない範囲で言うと、例えばナイキがアスリートに対してカスタマイズでシューズを提供していますよね。いかに足を測定し、その形状にぴったり合う素材を開発していくか。それは完全に技術の話で、スポーツメーカーは、カスタマイズのプロダクト開発を通じて、そういったデータをひたすらため込んでいる。未来の服は半分はファッションですが、半分はウエアラブルになるはずです。その時データを持っているところがいかに優位かは明らかですよね。

ムラカミ:ウエアラブル方向に行きますよね。東レがウエアラブルテキスタイルをつくっていることからも、その線はもう見えています。一般的にはぶっ飛んで聞こえる話が、確実に現実になっていきます。

北川:未踏の地こそすさまじい可能性がある。そういうビジョンを仮説でも持っている企業と持っていない企業とでは、中長期計画が絶対に変わるはずです。どんなにぶっ飛んだ話であっても、関係ない話だと置いておかずに、全て1回咀嚼してみることができるかどうか。その体質を持たないと、中長期計画なんて立てられないんじゃないでしょうか。

次ページ 「店頭体験はテクノロジーでどう更新されるのか」へ続く

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