iOS5の衝撃から考えた。『コンテンツ>システム』@プラットフォーム

文:糸永洋三


iOS5の衝撃、なんてちょっと派手なフレーズから始めます。わがMediaJUMP社、PC向けだけではなくiPhoneアプリも開発しています。現在サービスを開発している立場からすると、今回のアップルさんの発表に深くいろいろなことを考えさせられるな、と思うところがあるわけです。

WWDC(アップル主催のWorldwide Developers Conference)が開催された直後、さまざまなメディアでiOS5が話題になりました。「Appleに殺されてしまうひと達まとめ、あるいはプラットフォームに依存するということ」というブログを読みました。まさに衝撃的な内容、「プラットフォーマーとしてのアップル」の力強さ、影響力を、あらためて感じさせてくれました。

私やパウロが、WEBサービスを開発する立場、目線からも驚いた、あるいは動揺?! したポイントは、シンプルに「アプリ開発会社であるサードパーティービジネスの徹底的な脆弱性、危険性」にハッと気付かされた。その一点です。iPhoneユーザーが“超”多用、愛用してきた人気アプリのツール・機能がiOS5で標準装備されてしまうということ、たとえばツイッターアプリ、safariブラウザ、各種リマインダーツール、カメラ機能・・・。それらのアプリの中で、ユーザーに人気のあった「仕組み・UI・ツール」的なものは、見事にiOS5として、アップル側にプラットフォームの一部として組み込まれてしまう。

いいものをつくって、多くのユーザーに使ってもらう。無料アプリであれば広告収益を、有料アプリであれば課金収入を、というビジネスモデルの中に、プラットフォーマーが与え得る大きな脅威が潜んでいたということに我々は気づいていなかった、いえ気づこうとしていなかったのかもしれません。

今回、コラムタイトルを「コンテンツ>システム」としました。いくら優れた仕組みやシステム、きれいなUIがあっても、コンテンツ自体がグーグルやアップルといった強靭で強大、そして影響力が非常に強いプラットフォーマーの上に存在する限り、プラットフォーマーからプレゼンスをいつ脅かされるかまったくわからない、ということが改めて判明した。言い方はナンですが、プラットフォーマーはいつでもサードパーティーのいいとこどりをすることができる。それも仕組み、やUI、システムなどは簡単に真似ができるということでもあります。iTunes music Store がまさにそうでありますが、プラットフォーマーがシステムにプラスしてさらにコンテンツまですべてを掌握することも当然ありうる。

一般的にコンテンツ・ビジネスは常に手間暇がかかり、仕組みがきわめてアナログ的。であるがゆえに既存のメディア・エンタメ周辺産業が関わっていく上ではまだまだ勝機、ビジネスチャンスがあるのでは? と思うし、それゆえの「コンテンツ>システム」ではないか? 自分達が進めているビジネスに少なからずの勝機がある、と思い始めています。

翻って、MediaJUMPが開発している「あした何しよう?」を解決するWEBサービスについての話を少し。我々はさまざまなパートナーとの業務提携により、「コンテンツ」としてのイベント情報を、最初からWEBサービスの中で情報を保持するところからスタートします。主なパートナーには、さまざまな興行情報を幅広く配信している「ぴあ社」さんとの提携をはじめ、マス・インターネット「メディア」数社との提携をスタート時から開始します。そして全国の「ローカル」イベント情報を集約している会社とも連携。さらに「ソーシャル」としての位置づけ、すなわちユーザー自らがイベント情報をアップロードできる仕組みも同時にスタートします。

すでにメディアやローカルなどで集約されているイベント情報をあらかじめ「コンテンツとして保持」することと、ユーザーがイベント情報を自ら発信できる「ソーシャル」性を同時にスタートさせられる点は、WEBサービスとしてユニークであると考えています。最初に触れたような、iOS5の衝撃として受け止める課題に対して、心地よいUI&レコメンドエンジン開発というシステムと、イベント情報を保持するメディアとの提携というコンテンツの両輪を最初から回してサービス運営を始めます。

さまざまな競合アプリやWEBサービスをみてきたなかでも、システムとコンテンツの両輪を軸として進めているサービスはかなり少ないのではないか、と考えています。とは言いつつ、開発真っ最中な今、すでに非常に手間のかかる対応を迫られているのが実際です。さらにサービス開始後の運用フェイズにどのような苦難が待っているかは想像すらできないのですが……。なにぶんメディアそのものを運営するの実質、初体験。そして“瞬発力”ばかりが長所な広告会社社員な我々です・・・ドキドキドキドキ(苦笑)。

冒頭、「コンテンツ>システム」とタイトルでは刺激的なワードを並べましたが、サービスUIのようなツール&システム・仕組みがあってこその、「コンテンツ」でもあるな、ということで、『システム+コンテンツ>システム』@プラットフォーム、という当たり前っちゃ当たり前のタイトルが帰結点かもしれません。未開拓・未経験の領域の中へ、総合広告会社の既存資産を活用してチャレンジをする意味合いにおいても「システムとコンテンツ」の両輪をどう運転していけるか、が重要なのだということを改めて強く認識させられます。

「箱、システム」だけをつくってユーザーの参加を待つのではなく、しっかりとコンテンツも最初から提供していきたい。総合広告会社グループがあえて「ベンチャー・独立事業体として新規事業にチャレンジする」ならば、どんなビジネススキーム、事業体制を追求していくことができるのか。当然ながら、理解してもらえる範疇でしか新しい事業が社内では成立しにくい、という一般的なジレンマがある中で、どういった答え、結果を出し続けていくことができるのか・・・。

最後に。このコラムの回数が進むごとに、我々自身がそのサービス・レベルの世の中的な期待値というハードルをどんどん上げ続けていってしまっていることにようやく今、気付きながら来週はパウロに筆を任せます(笑)。

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小林パウロ篤史/糸永洋三(MediaJUMP代表取締役共同経営責任者)
小林パウロ篤史/糸永洋三(MediaJUMP代表取締役共同経営責任者)

小林パウロ篤史
1998年総合商社に入社。中南米、アフリカへの自動車輸出業務に携わる。初出張はスーダン。その後、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズにて広告の最前線を経験。「ミクシィ年賀状」などで受賞歴あり。2011年4月から現職。(写真左)

糸永洋三
2000年博報堂入社。大手自動車会社などを担当。その後、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズにて、インターネット領域のメディアプロデュース業務を担当。2011年4月から現職。(写真右)

株式会社MediaJUMP: http://www.media-jump.co.jp
Twitter :  小林パウロ @paulokobayahsi  糸永 @yozoyozo

小林パウロ篤史/糸永洋三(MediaJUMP代表取締役共同経営責任者)

小林パウロ篤史
1998年総合商社に入社。中南米、アフリカへの自動車輸出業務に携わる。初出張はスーダン。その後、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズにて広告の最前線を経験。「ミクシィ年賀状」などで受賞歴あり。2011年4月から現職。(写真左)

糸永洋三
2000年博報堂入社。大手自動車会社などを担当。その後、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズにて、インターネット領域のメディアプロデュース業務を担当。2011年4月から現職。(写真右)

株式会社MediaJUMP: http://www.media-jump.co.jp
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