株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
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行動科学の理論に基づくソーシャルマーケティングを手がけるキャンサースキャン。がん検診の受診率向上など公衆衛生の向上を支援するマーケティングサービスを、主に自治体向けに提供している。創業は7年前の2008年。元・P&G社員でハーバード・ビジネス・スクール出身の福吉潤氏とハーバード公衆衛生大学院で健康づくりを研究していた石川善樹氏の3氏によって設立され、その後、福吉氏のP&G時代の後輩で同じくハーバード・ビジネス・スクール出身の米倉章夫氏が参画した。
「福吉も私も、『商品を売ること』よりも、もっと世の中のためになることをしたいという思いがありました。P&Gで培った、消費財ブランドのマーケティングスキルを、日本の公衆衛生の改善に生かせればと考えたのです」と米倉氏は語る。
事業は、がん検診の受診率向上からスタートした。クライアントは各自治体の保健事業担当者だ。2005年頃から、厚生労働省のがん検診受診率向上に向けた動きが活発化し、乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを伝える「ピンクリボン運動」などが盛り上がりを見せていた。しかし、がん検診受診のベネフィットの認知は着実に高まる一方で、実際の受診率向上にはつながっていなかった。キャンサースキャンはここに目を付けた。
「世の中には『認知度が高いのに売れない商品』が山のようにあります。がん検診も同じで『知っているけれど行かない』人が多い。この領域にマーケティングの考え方や手法を持ち込むことで、受診率アップを実現できるのではと考えました」。
日本人の死亡原因の1位が悪性新生物、がんであることはよく知られている。ところが当時、日本の乳がん検診の受診率は2~3割と極端に低かった。検診率の向上は国家の要請であり、自治体からのニーズも高いはず。そう見たキャンサースキャンは、「マーケティングによる乳がん検診の受診率向上」を事業化した。
具体的には、独自の行動科学に基づいて検診のターゲットを3つにセグメントし、それぞれに合ったメッセージや表現のツールを制作する。そして、自治体・行政ごとに、検診対象者の傾向に近いセグメントのツールを展開していくという手法だ。
PHRから人工知能の開発へ
ほどなくして、事業のカバー領域は別の分野にも広がっていく。がん検診受診率向上に向けた支援をしているうちに、自治体から相談されるようになったのが「特定健康診査(特定健診)」の受診率アップだ。特定健診とは、国のメタボリックシンドローム対策の柱として2008年4月に導入された健康診断。糖尿病や高脂血症、高尿酸血症などの生活習慣病の発症や重症化を予防することを目的としている。
自治体にとっては、がん検診以上に特定健診の受診率向上が深刻な課題となっているという。米倉氏は、特定健診こそキャンサースキャンのマーケティングノウハウの真価が発揮できる領域だと話す。「特定健診のターゲットについては、人間ドックや健康診断の結果や医療機関での診療記録といったパーソナルヘルスレコード(PHR)が約7年分蓄積されています。
このPHRを解析し、より精緻なターゲティングを行えば、一人ひとりに合った内容・表現のメッセージを送ることもできます」と米倉氏。がん検診のときは、大きなセグメンテーションを対象に汎用性の高い戦略を策定し、各自治体・行政の傾向に合うものを提供していたが、特定健診ではよりパーソナライズしたアプローチが可能となった。
米倉章夫 Akio Yonekura
2005年東京大学経済学部卒業。P&G Japanにて消費財ブランドのマーケティング戦略立案・実行、ブランドマネジメントに従事した後、キャンサースキャンの設立に参画。Campus for Hの代表取締役も務める。
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