ファンドレイジングの「起承転結」をお伝えします

【前回記事】「マーケティングオートメーションはNPOマーケティングの切り札となるか?」はこちら

NPOをはじめとする非営利組織の最大の課題、マーケティング・コミュニケーションについて、3人のプロたちがさまざまな手法を指南するリレーコラム。最終回を迎えた今回、長年広報としてシャンティを牽引し、2016年から新会社を設立するという鎌倉幸子氏が、ファンドレイジングの「起承転結」を語ります。

ファンドレイジング(資金調達)は、活動のための資金を集める行為と定義づけられています。そのための手段としてチラシの作成、ホームページの充実、ソーシャルメディアの活用など「方法」に注目されがちですが、きちんとステップを踏んで行う必要があります。

【起】団体が行っている活動は社会のどのような課題を解決するのかをクリアにする

社会の課題にどう向き合い、どのような社会の実現のために活動を行っているのかを明確にすることは必要不可欠です。それがないと、強い共感メッセージを発することができません。ファンドレイジングは、ファン「度」レイジング(仲間づくり)とも言われています。

目的を持たずに集まってきた人が組織を作っても、内部分裂をすぐに起こすでしょう。同じ目的に向かって進む仲間がいるからこそ、活動を加速することができるのです。

【承】SWOT分析で自分たちを知る

広報としての立場で常に意識をしているのは「団体のブランド」をどう維持し、生かしながら、資金調達のメニューを考えるかという点です。

経営課題の把握のために自分たちの強み(S=Strength)、弱み(W=Weakness)、機会(O=Opportunity)、脅威(T=Threat)を認識する作業をスタッフ、理事、ボランティアなど、さまざまなステークホルダーと一緒にSWOT分析をやると団体の状態が見えてきます。弱みを克服したり、外からの脅威を避ける議論も経営的な面では大切です。それ以上に、団体の強みや機会を活かすポジティブな発想をしていくと、スタッフのモティベーションも上がっていきます。「歴史がある」団体だと、それを出すことで信頼度を増すことができます。「難病の子どもたちに向き合う」団体ですと、その難病をかかる方やそのご家族が注目するでしょう。団体の特質する点を伸ばした広報をすると、ターゲットとなる方に届きやすくなります。

【転】ASK「募金のお願いをする」

人々が寄付をしない最もの大きな理由は「お願いされなかった」からだそうです。お金の話はしづらいものです。ただ寄付は社会をよくするための社会参加でもあります。募金のお願いをしないことは、人々の社会参加の機会をなくしていることにつながります。

団体の使命や事業を「共感する」メッセージを共に伝えていくことで、人々がその課題を認識し、解決のためのメンバーとなってもらうように呼びかけましょう。

共感メッセージのつくり方は2015年11月19日掲載の本コラムに書きました。それにプラスして注意する必要があるのは、業界の人間しか分からない用語を多用していないかです。国際協力業界の会議では「サスティナブルな社会の実現のため、アドボカシーの強化を行う」など普通に話されますが、一般の人たちに伝わるのか考えないと自己満足で終わってしまいます。

【結】THANKS「お礼を伝える」資金調達の黄金律は上記に述べたAskとThank

(感謝すること)と言われています。ご協力くださった方に感謝することを忘れてはいけません。激しくお願いはされたが、お礼がないとなると団体の信頼の低下につながります。

自分自身もポケットマネーから募金をするのは、一つの決断だと思います。同じように、寄付をしてくれた人がわざわざ時間を使って郵便局に行ってくれた、クレジットカード決済の画面に進んでくれたということに対して「ありがとう」という気持ちをスタッフは常に持っていたいものです。

また領収書への一筆書きも手間に思われるかもしれませんが、効果はあります。ダイレクトメールは開封されずに捨てられるケースが多いかもしれませんが、税制優遇が受けられるNPOの領収書が入った封筒はかなりの確率で開封されます。だからこそ、その中に入っているレターは考えて丁寧につくることをお勧めします。

寄付者が一番知りたいのは、お金が何に使われたかということです。領収書を送る封筒の中には、活動計画や報告など入れることで安心感が生まれます。

まずは【起】自分たちの方向性を見出し、【承】団体内の土台固めをして、【転】ファンドレイジングを実施し、【結】参加してくれた人にお礼を伝える。このサイクルがファンドレイジングの好循環を生み出していきます。


本コラムはこの回をもって、一旦終了となります。NPOをはじめとする支援団体が抱える課題、“マーケティング・コミュニケーション力”の向上に、少しでも本コラムの情報が寄与できれば幸いです。お読みいただいた皆さま、ありがとうございました。

マーケティング コミュニケーション実践論
マーケティング コミュニケーション実践論

■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

マーケティング コミュニケーション実践論

■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

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