「Think first!」から「Do it first!」へ
この1年でデジタル化は急進し、人間の五感が受ける多様な情報は、許容範囲から溢れ出て、処理能力のない人には錯誤を与え、パニック状況となる場合もある。そんなとき人は冷静になろうとし、まず慎重に考えようとする。Logical Thinkingはそうした人々に対してよく用いられている思考法の代表格だが、多様かつ千差万別の情報から適切な情報だけを抽出するのは、かなりの技術が必要だ。
さらに、今回の原発問題を例にしても、情報が混乱し、肝心の正確な情報が得られないなど、情報周りの不審感は否めない。いくら情報量が多くても、適切な情報がなければLogical Thinkingは難しい。
今の環境では、何かを考えるより、何かを行うことが重要だ。行動を起こして初めて発見できることの方が多いと感じる。Do it first! 復興や支援業務でもそうだが、まず行動力が求められている。
自分の目で見て、感じ、言葉にすることの重要性
かつて私は外資系損害保険会社の調査部門の責任者をしていた。米国本社のカウンターパートナーには、過去にCIA、FBIなどの政府機関に勤めていた者も多いが、彼らは声をそろえて「情報処理は現場鑑識にはかなわない」と常に言う。何かを頭に描き、検討する場合、まず現場を見るところから始める。Eyeball Catchingの精神である。
こんな事件があった。ある建物から火が出て全焼。遺体は発見されず犯罪の痕跡はないとの報告を受けた。私は念のため現場に出向き、玄関のキーシリンダーの施錠状況、窓ガラスの破片の位置、オリジン(火元)を確認した。さらにバケツに水を入れ、焼け焦げの激しい出火場所と思われる場所から木片をつかみあげてはバケツに放り込んだ。
するとバケツには油分が浮かび上がり、何らかの油が撒かれた可能性が出てきた。キーシリンダーの施錠はロック状態にあり、窓ガラスの破片は全て建物の外に落ちていた。オリジン(火元)は2階へ続く階段脇と応接間の2箇所があり(Uncommunicated Fire)、完全な放火と断定された。この事例では、出火前に外部から窓ガラスを破って中へ侵入した形跡はなく(内部にガラス破片が落ちていない)、玄関が施錠されていたにもかかわらず、内部で放火された痕跡が発見されたことで内部犯行の放火と後日立件されたものである。
「他人に見えなくても現場に行けば見えてくるものがある」とは元FBIの先輩社員の言葉である。Eyeball Catchingは、曇った情報でも自分の目で確かめて行けば必ず真実にたどりつける方法であることを教えてくれた。
これから見えてくる世界は自分自身の手でつかみ取る
これからは、何が見えるかではなく、何を見に行くかがポイントとなる。「Eyeball Catching」に慣れたら次は「Eyeball Targeting」だ。そして、ここでも「Do it first!」の考え方は重要だ。
多様な情報の潮流にタグをつけていくには、イマジネーションが不可欠だが、それは自ら関心を持ち、自分の目で確認する作業の積み重ねから生まれる。仮説を裏付け、真実にたどりつく醍醐味を経験したら、もはやその魅力から逃れられない。
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