新たに広がる“編集者不在”のメディア・プラットフォーム
編集者が存在しないWeb上の「メディア・プラットフォーム」が注目を集めています。原稿や制作物を寄せるのは、無名の人から著名作家まで多様です。すでに売れている著者までが、メディア・プラットフォームを通じて、記事や小説、エッセイなどを発表し、直接読者・ファンとつながるようになっています。
それに伴い、中抜きされる形になる出版社、編集者の間では、不安や危機感が芽生え始めているようです。「Yahoo!ニュース個人」と「note」という2つのメディア・プラットフォームを例に挙げつつ、機会と課題について考えてみましょう。
Yahoo!ニュース個人は「オーサー」と呼ばれる書き手が、原稿の長さ・掲載する時期を問わず、自由に投稿できます。写真や見出し、小見出しといった本来、編集者が担当することの多かったことも、書き手である自分自身でつけます。そして記事は“編集”されることなく、好きなタイミングで公開できます。つまり、運営形式はブログと同様です。ブログと異なるのは、オーサーになるためには、Yahoo!社内の審査があることで、ここにスクリーニング機能が働いています。
本稿を執筆している2月22日時点で、Yahoo!ニュース個人では、「国内」「国際」「経済」「エンタメ」「スポーツ」「IT・科学」「ライフ」の7カテゴリーの記事が公開されています。「ニュース」と銘打っているように、報道、ジャーナリズム、ノンフィクション志向のメディア・プラットフォームとも言えます。筆者も「次世代中心主義」をテーマに枠を持ち、月1本ペースで、子どもやジェンダーに関する記事を書いてきました。
noteはクリエイター向けのプラットフォームです。Yahoo!ニュース個人との共通点は編集者がいないこと。クリエイター向けとは言えど、どんな人でも、記事や制作物を自由に投稿できます。「マンガ」「コラム」「小説」「写真」「音楽」の5カテゴリーを扱っています。
2つのメディア・プラットフォームに共通する“編集者不在”には、メリットとデメリットがあり、ともに短期的なものと長期的なものに分けられます。順に見ていきましょう。
編集者がいないことによる短期的なメリットは、著者や制作者の経済的リターンが増えることです。原稿料などの決まった報酬を得ることは基本的にはできませんが、印税の10%と比べると筆者への還元率が遥かに高く設定されています。読者からの支持(PV、販売数)は直接、経済的に筆者の報酬につながります。
たとえば、Yahoo!ニュース個人は、広告売上を記事のPVに応じて配分する方式をとっており、筆者が投稿した100万単位のPVのある記事から得られた報酬は、10万円単位に上っています。出張を伴う取材・執筆に費やした時間と労力を回収できる金額と言えます。
2015年12月に、Yahoo!ニュース個人は、オーサーへの還元率を上げることを含む、新しい施策を打ち出しました。これにより、編集者のいるWebメディアより、魅力的な報酬を提示できるようになっています。私の周囲にも、この施策を受けて「Yahoo!で書きたい」と希望するプロの書き手が複数、出てきました。いずれも単著を持つベテランです。
このような人材の移動が起きる背景には、既存のメディアが提示する原稿料が、紙・Webともに、書き手から見て低すぎる現状があります。原稿料相場はメディアにより異なりますが、数千文字の原稿に対して2万円前後という設定が多いようです。もちろん案件にもよりますがこの金額では、手間のかかる取材をして執筆し、家計を支える収入を得るには難しいと感じます。ちなみに、筆者も収入源は執筆・講演・コンサルティングに分散しています。
経済的な魅力は、noteにもあてはまります。The Startup代表取締役の梅木雄平氏が、2月13日付の自身のサイトでnoteでの売上を公開しています。これによると、3000円の本を414冊売って124.2万円となっています。
梅木氏のコンテンツは、スタートアップ企業の資金調達に関する分析、しかも投資先としての有望度合いを格付けするなど、専門性が高いのが特徴で、他のコンテンツと同列に論じることはできません。ただ、読者がお金を払う価値がある、と認めるコンテンツをつくれる人には、売上が丸ごと手元に入る構造がよくわかります。
このように、“編集されない”メディア・プラットフォームを活用することで、売れる=よく読まれるコンテンツをつくった際には、その成果がもたらす経済的なリターンを、編集者や出版社に中抜きされずに、手にすることができます。
長期的なメリットも、経済的なインセンティブで説明がつきます。“編集されない”メディア・プラットフォームは、稼げそうに見えるので、若いクリエイターや作家・ジャーナリスト志望者を多く集めるでしょう。その中から、次のスターが生まれる可能性があります。