学研ホールディングス
1946年設立
創業者・古岡秀人氏が「戦後の復興は教育をおいて他にない」という信念のもと創業。現在の主な事業は教室・塾、出版、幼稚園や学校への卸など。高齢者向け福祉の分野も近年は伸びている。就学前の子どもたちや小中学生、そして高齢者まですべての人が心豊かに生きるための「今日の感動・満足・安心、明日への夢・希望」を提供する展開をしている。
感謝の先にある未来への「宣言」
長寿企業の周年事業で頻出のキーワードに「感謝」があります。「ありがとう●周年」「おかげさまで●周年」といったように、感謝を表現する目的は、企業にとってのファンづくりです。語り部となる社員を増やし、ステークホルダーに「支持者」「応援者」として共に歩んでいきたいと思わせるかが重要です。さらに企業のブランディングにつなげるには感謝を伝えるだけではなく「未来に向けてどのような企業として歩んでいくのか」という明確なテーマ設定が必要となります。
学研ホールディングスでは「見方を変えると、世界が変わる」というキャッチフレーズを70周年のテーマとしました。難しいことを「楽しく」表現し、「学びたくなる学び」を提供する。そんな学研の原点と視界の拡がりを表現したものです。時代の流れに応じて業態を変化・進化させながら、自社のポリシーを貫いていくという姿勢をステークホルダーに宣言した言葉だと言えるでしょう。
過去の資産に今の価値を加える
70周年の記念事業は2014年からスタート。DVD付の図鑑シリーズ「学研の図鑑LIVE」の発刊のほか、特設サイトのオープン、社員向けの記念品配布、そして本社で開催するリアルイベントなどステークホルダーに感謝し、ファンづくりのための施策にこだわっています。
そして最も注目すべきは、社内外に向けたあらゆる施策が一つのストーリーとして成立している点です。代表例が、2016年3月末に阿佐ヶ谷のミニシアターで開催されたイベント「学研映画アニメーションフェスティバル」。企画の始まりは2015年4月に実施した、社員への書面アンケートでした。「70周年 お宝探し隊」と銘打ち、「これまでの学研グループの商品で、70周年という記念にふさわしい商品を皆さんで探してください!」と呼びかけたのです。
具体的には①復刻したい商品・サービス ②学研の歴史を語るなかで外せない、取り上げてほしい商品・サービス ③70周年記念としてお客さまに貢献できる事業や提案という3点、つまり「自社の誇れる資産」について考えてみる機会を設け、意見を募りました。
その中である社員から出てきたアイデアが、1958年から70年代にかけて制作してきた学研のアートアニメーションの復刻でした。そこで2015年11月にオープンした特設サイトでは、幼児向けにかつて制作していた人形アニメ作品を隔週で1本ずつ無料公開。さらにサイト上で作品を観た映画館から声がかかり、「学研映画アニメーションフェスティバル」が実現したのです。
「特設サイトをきっかけに、社外から協業の呼びかけが相次いでいます。これはプロジェクトの立ち上げ当初は予想していなかった嬉しい誤算でした」と小野さん。7月には、カバヤ食品から「学研の図鑑LIVE」をミニサイズ化した商品が発売されたほか、準備中のコラボレーション事例も多数控えているそうです。
3日間にわたり開催された「学研映画アニメーションフェスティバル」のプログラムは作品を流すだけではありません。アニメ制作を体験できるワークショップやトークショーを企画し、劇場へ足を運んだからこそ体験できる独自の価値を加えた点もポイントでした。
自社が持つ過去の資産への光の当て方を変え、現代のニーズに沿って新たな体験価値を加えた事業にする–まさに「見方を変えると、世界が変わる」ことを体現し、“学研らしさ”へのこだわりが収益にもつながるという証明となっています。一連の周年事業を通じて、世の中のニーズやウォンツを時代に即した形でアレンジしながら、100年企業を目指していくという姿勢を社内外のステークホルダーに再認識してもらう好機にもなっています。
市場が変化し続け、簡単に情報が流通する現代。自社ブランドの構築は至上命題となっています。事業の多角化、進化に応じて自社が守り続けること、または自社が変化していく方向性を社内外に明示することは以前よりも重要度が上がっています。後手に回りがちですが、周年の機会を利用して、計画的にブランド構築に取り組んでいくことを強くお勧めします。
文/根本絢帆 リンクイベントプロデュース エンジニアリングユニット マネジャー
ねもと・あやほ 2005年リンクアンドモチベー ション入社。リンクイベントプロデュース創業 時から参画、数多くの周年事業、理念浸透プロ ジェクトに従事。イベントを通じた企業のイン ナー・アウターブランディング、人の心を動か す「場創り」を支援する。