(*本記事は、月刊『宣伝会議』2016年10月号 900号記念特集内「カオス時代のデジタルテクノロジー、未来に向けたロードマップを描く」の一部を抜粋したものです。この記事全文はこちらからご覧いただけます)
全ての機能を内包した 統合プラットフォームは不可能!?
顧客接点が劇的に増え、顧客のデータを取得できる機会、そしてコミュニケーションを取れる機会が格段に増えました。その中で、より顧客を深く知りたい、顧客を深く知った上で適切なコミュニケーションを取りたいとデータの活用、リアルタイムに近いワントゥワンマーケティングの実現を目指す企業が増えてきました。そこで欠かせないのがテクノロジーの活用です。
しかしマーケティングの進化に合わせて、テクノロジーもめまぐるしいスピードで増えています。マーケティング・テクノロジーを提供する企業の数だけでも、2011年には150程度だったものが2014年には約1000に、そして2016年では、3500以上へと増えていると言われています。こうした状況からガートナーは「大手システムベンダーの9割は、2019年には環境に適合した統合型のソリューションを提供できない状況になる」との予測を出しています。
自社ならではの「テクノロジースタック」をつくる
私は今年3月、米・サンフランシスコで開催されたマーケティング・テクノロジーのイベントである「MarTech」に参加をしてきました。そこでも企業のCMO、あるいはCMTO(Chief Marketing Technorogy officer)により、自社の「マーケティング・テクノロジー・スタック」の発表が盛んに行われていました。自社のマーケティングのロードマップを描き、その上で、実現に必要なテクノロジーを選び、組み合わせて自社ならではの「テクノロジースタック」をつくろうとする動きが顕著になっているのです。
日本では2015年頃から、「マーケティング・オートメーション」がバズワード化していることもあり、ややもすると統合型のマーケティング・クラウドを導入すれば、あらゆることが実現してしまうのではないか、という幻想が生まれているのではないかという懸念も感じます。
大手ベンダー各社は独自のマーケティングの“思想”をベースに、それぞれのパッケージ型の商品を開発・提供しています。そこで、自社の描く思想に合致したベンダーを選んで、思想ごと取り入れ、マーケティングを変革させてしまうという選択肢もあります。それでも、そのパッケージ型の商品の中に内包されている機能をどこまで吟味し、他と比較できているかと言えば、難しい面もあるのではないでしょうか。
デジタル活用のマーケティングにおいて、米国は日本よりも数年進んでいます。日本ではやっと統合型のマーケティング・オートメーションツールの導入が始まったところですが、数年のうちには、そうしたツールも取り入れつつ、さらにその周辺に自社に合ったテクノロジーを選んで、組み合わせて、独自のマーケティング・プラットフォームをつくらざるをえない環境になっていくでしょう。
未来に向けて何をすべきか? ロードマップを描こう
下の図は「MarTech」で紹介されていた、とある企業の「マーケティング・テクノロジー・スタック」から、具体ソリューション名を省いたものです。米国のマーケターは、このようなフォーマットに自社が導入した、あるいはこれから導入を検討しているソリューションを書き加えて、その会社ならではのマーケティング・プラットフォームを構築しようとしています。
どれだけデジタル化が進んだと言って、マーケティング活動の目的が変わるわけではありません。いつの時代も変わらず、いかにして顧客を深く知るかがマーケティング活動を推進する上で、大前提となることです。
これまでブラックボックスになって、見えていなかった顧客の行動も取得できるデータが格段に増えたからこそ、解明できる可能性が増しています。しかし、テクノロジーを使えば可能になる領域が増えているからこそ、常に自社がやりたいこととその優先順位を明確にし、一つのテクノロジーやソリューションだけに依拠しすぎず、自ら取捨選択できる力がますます必要とされていると言えるのではないでしょうか。
アンダーワークス
代表取締役社長
田島 学(たじま・まなぶ)
早稲田大学政治経済学部卒。南カリフォルニア大学留学。アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)などを経て、2006年アンダーワークスを創業。大手企業へのデジタルマーケティング戦略・マーケティングオートメーション支援に従事。
(*本記事は、月刊『宣伝会議』2016年10月号 900号記念特集内「カオス時代のデジタルテクノロジー、未来に向けたロードマップを描く」の一部を抜粋したものです。この記事全文はこちらからご覧いただけます)