AbemaTVと『君の名は。』のプロモーションは似てるんじゃないかという話

【前回】「都知事選、シン・ゴジラ、ポケモンGO、コミュニケーションは量より質の時代になった?」はこちら

AbemaTVの運営体制を分析してみた

またAbemaTVのことかよ。そう自分でも思います。この連載で今年、もう何回とりあげたかと。去年はNetflixのことばかり書いてた気がしますが今年はAbemaTVに鞍替えしたみたいな。まあでも、テレビとネットの融合がテーマのこの連載にとって、あまりにもテレビとネットの融合なので、どうしてもそうなっちゃいます。ご容赦を。

さて毎回その急増ぶりをお伝えしていますが、9月11日時点でアプリのダウンロード数が800万に達したそうです。5カ月間で800万。このペースだと10月中には1000万に届くかもしれません。勢いが衰えていないのがすごいです。

AbemaTVの躍進に大きく寄与しているのがAbemaTIMESではないか。これについては前にも書きました。(→「AbemaTV」600万DL達成の鍵は?メディアにメディアが必要な時代

AbemaTIMESの重要性は、見ていれば概念的にはわかるのですが、もっと具体的に知りたい。そこで、取材に行きました。

対応してくれたのは、サイバーエージェントの宣伝本部長・野村智寿氏と、Abema編集局局長・古川政博氏。

野村氏はAbemaTVに限らずサイバーエージェントのあらゆるサービスの宣伝広告を全体的に見ていて、もちろんAbemaTVが盛んに展開するテレビCMや、前に紹介した7月の新聞折り込み1000万部も担当していたそうです。

そして古川氏がAbemaTIMESを担当しています。専属スタッフは4名。他に外部スタッフも入れて毎日てんてこ舞いで運営しているようでした。というのも、AbemaTVはもうチャンネル数が30になっています。AbemaTVはチャンネルの集合体ですから、地上波テレビ局よりずっとコンテンツ数は多いことになります。それを少人数で紹介しなきゃならない。大変です。

もっとも、メインとなるのはAbemaNewsとAbemaSpecialなどオリジナル番組を中心に放送するチャンネルです。さすがに30チャンネル分のコンテンツのすべてを伝えるのではなく、主要な部分に絞っています。

さてお二人のお話をうかがい、当然宣伝本部が中心になってAbemaTIMESに指示を出すわけですよね?と聞くと、そうではない、と言うのです。最初、ちょっとわからなかった。宣伝部がリーダーシップを取るんじゃないの?と考えてしまうのですが、ちがうらしい。

こういう感じらしいのです。

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マスメディアを使った広告宣伝が主でAbemaTIMESが従、という関係ではない。それからAbemaTIMESは独立した主体として運営しているのだと。そしてソーシャルメディアはまた独自に運営している。「いくつかの視点でAbemaTVについて語られれば、いろんな角度からAbemaTVに接することになりますよね」と野村氏は言います。なるほど。

広告宣伝はおのずからAbemaTVが主語になります。私はこういうメディアです、私を見てください。自分で自分を売り込む。でもAbemaTIMESは、「AbemaTVって知ってる?昨日はこんな番組やってたよ」というスタンス。FacebookやTwitterもまた同様。そうすると、本人から言われたり、その友達から言われたりするわけです。それがいいのでは、と。

お二人から聞いたことを図にしてじーっと見つめていたらどこかで見た気がしてきました。そう、これってトリプルメディアマーケティングの図と同じですよね。まったく同じ。5年くらい前に盛んに言われた概念で、最近はとんと聞かない用語になりましたが、別にトリプルメディアマーケティングが間違いだったわけではなく、こうして自然に登場するようになったのです。この言葉が言われた時には「視点が違う」話はあまり出てこなかった気はしますが、人びとと自然に接するには視点が違うことは重要ですね。それと、AbemaTVのプロモーションはAbemaTIMESが重要な役割を担っていますが、だからと言ってマスメディアによる広告宣伝は要らなくなったりはしてません。むしろ重要です。

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パーチェスファネルの図に重ね合わせるとよくわかります。

広告宣伝による認知があり、ソーシャルメディアとAbemaTIMES は興味喚起や検討の役割を果たしている。認知させる活動は必要なんですね。

いずれにせよ、この考え方をサイバーエージェントの方から聞いた時、エポックメイキングな印象を持ちました。というのは、こういうトリプルメディア的なコミュニケーションの組み立て方は今後、どんな商品、ブランドでも必要になる、当たり前になる気がします。そういう時、この図の広告宣伝の部分と、ソーシャルやAbemaTIMESに当たる部分つまりオウンドメディアの部分と、どっちが大変かつ重要かというと、後者じゃないかと。

広告宣伝の部分は、媒体社と交渉すればだいたいわかるのに対し、ソーシャルやオウンドメディアはやってみないとノウハウが身につきません。そうするとこれからは、媒体社との関係を売りにする総合広告代理店よりも、ネットエージェンシーのほうが頼りになるんじゃない?そんな気がしました。私もオールド広告代理店の世界出身なので、こりゃあやばいぜ、と思いましたね。

さて、このAbemaTVのプロモーションは非常に応用が効きます。それから、これと少し違うけど似てるなと思ったのが『君の名は。』のプロモーションです。

次ページ 「『君の名は。』のヒットにはオウンドメディア戦略がある」へ続く

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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