表現やメディアプランの前に必要なもの
業界志望の学生や若い広告マンに会うと、「コミュニケーション・デザイナー」、「コミュニケーション・プランナー」になりたい、という話を聞くことが少なくない。「ところでそれはどういう仕事だと思う?」と尋ねると、「これまでの広告はマスメディアを使ったものが主流。CMプランナーとかコピーライターとかではなくもっとメディアにとらわれない企画をしたいから」という回答が返ってくる。なるほど。「コミュニケーション・プランナー(デザイナー)」=横断的にメディアを使うクリエーターという認識があるのか。新しい、カッコイイ職種が生まれたということは、広告業界自体の「マーケティング」には非常に役立つ。優秀な若者を引きつけるのに役立つのであれば。さて、僕自身も「コミュニケーションプランナー」を名乗っている。その理由は、「旬だから」。しかし実際は「コミュニケーションプランナー」である以前に「コンテクスト・プランナー」だと考えている。
広告主の商品・サービスを目の前にして、そこに「コミュニケーション課題」を発見したとする。しかしいまどき、この商品はここがイイんです! と一方的に伝えても、「伝わったとしても」買ってもらえない。また、たとえ横断的にメディアを使ったとしても、「伝える」という思考であっては、どれも結局同じ役割しか果たさない。大事なのは、「この商品、どのようなコンテクスト(文脈)なら受け入れてもらえるか」「どのようなコンテクストを開発すべきか」という思考ではないかと思う。
例えば最近発表された『コクームスペース』(大和ハウス工業)という女性のための住宅商品。もしこの商品が単に「女性向けの部屋」として売り出されるだけでは、納得感は生まれにくい。しかしながら、記者発表に登壇した「美魔女」のお一人のブログに書かれているように、「男性には書斎、子どもには子ども部屋があるのだから」というフレーズが出てくれば、「あ、そう言えば」という「!」が読んだ人の頭の中に生まれる。
(そしてその一表現として、唯川恵さんのオリジナル小説『繭に抱かれて』を読めばますますその理解が深まる、という構図になっている)
ターゲット消費者にハマる「どのようなコンテクストを想定し、生み出し、提示し」、その中にいかに商品を「埋め込むか」。今、広告主が求めているのはこうした「コンテクスト」の企画であり、本質的にはメディアを多様に使うこと、これまでにない表現を開発することではないのである。もちろん実際的な戦術に落としこむ時に「コミュニケーションの企画」を行う「コミュニケーション・プランナー」の役割は重要だ。しかし「コンテクスト・プランナー」はもっと必要とされている存在なのである。