神戸 海知代(かんべ みちよ)
大広、広瀬広告事務所、アサツー ディ・ケイを経て、かんべ笑会を設立。ヤマサ醤油「ふたりの関係が冷めたと思ったらまず、台所で火をつける。」「ちょっと言い過ぎたかなと思った夜は、そっと煮物を出す。」シロノクリニック「人は人生の半分以上を、年齢とたたかっている。」ごちクル「会議の出席率は、お弁当が決める。」など制作。TCC新人賞、ACC賞、消費者のためになった広告コンクール、ロンドン国際広告賞など受賞。
http://canbe-shokai.com
この審査員リレーコラムも、いよいよ5人目。宣伝会議賞グランプリをめざす皆さんに、いますぐ応募に役立つアドバイスを、というお題ですが、一昨年のクリスマス・イブに出産、今年福岡で独立開業をしたばかりの私に何ができるんだろう。縁遠いにもほどがあるぞ、と弱気になりかけましたが、ご縁がありました。
過去、私が審査を担当した作品群の中から、グランプリをはじめ上位賞の受賞者が出ているんです。賞を獲るコピーや企画には、迷いなく〇をつけていた記憶があります。そのくらい自然にスッと入ってくる感覚。コピーを書いたご本人たちも、言い回しだとか句読点の位置だとか、細かい表現に悩むことなく書けたんじゃないでしょうか。
「体験していないことは書けないよね」と以前、職場の違うコピーライター4人で集まって飲んでいたときに話したことがあります。体験とまではいわなくても、実感していないことは書けないんじゃないか、と。だからコピーや企画を考えるときには、不器用なほどに時間がかかります。
そういう意味でも、締め切りまでにたっぷり時間をくれる宣伝会議賞は素晴らしいです。皆さんが書き溜めたコピーや企画も、すでにかなりの数になっているのではないでしょうか。まだまだこれからだというあなたも、あせらず、あわてず、あきらめず。締め切りの数時間前に書いたコピーで受賞している人もいます。
その人は、深夜の仕事場でふと思ったことをコピーにしたんだそうです。ふと思った、と話していますが、四六時中ぼんやりと考えていたことが何らかの刺激を受けてポンとかたちになったんでしょうね。ほかの作業にも追われて徹夜をしていたけれど、このときは苦しくなかったといいます。むしろワクワクしていたくらいだった、と。
これって、“ライターズ・ハイ”かも。内輪で勝手にそう呼んでいるだけですが、ほんとうにあるんですよ。ランナーズ・ハイは、長い距離を走り続けていると苦しさや辛さを感じなくなってきて、気分が高まっていく。走ることがひたすら楽しくなって、どこまでも走れるような気さえしてくる。“ライターズ・ハイ”もそれと似ていて、書けば書くほど気もち良くなってくる。コピーや企画のアイデアが、湯水のように湧いてくる。
毎回こんなふうだったらいいけれど、いくつかの条件があるみたいです。ランナーズ・ハイの体験談をもとにすれば、まずは、長時間走り続けること。さらに、ある程度の辛さを感じるくらいのペースで走っているときに起こる現象だということ。つまり、辛さすら楽しんでしまえる人が、いいコピーや企画を書けるのです。
“ライターズ・ハイ”がランナーズ・ハイと違うところは、時間や場所を選ばないということです。会いたい人に会ったり、おいしいごはんを食べたり、おふろやトイレでくつろいだり、ショッピングをしたり、たまにはお酒をたしなんだりしている瞬間でも、何かを生みだそうとする視点をもっているかぎり、それはいつでもやってくるのです。
さぁ、グランプリに向かって走りだそう。
日本最大規模の公募広告賞「第54回宣伝会議賞」は、11月11日13:00まで作品応募を受付中です。課題は好評発売中の「宣伝会議」10月号誌面をご覧ください。また、応募は公式サイトで受け付けています。