知り合いの事務所の若手スタッフのK君は、よくできた青年である。
歳はまだ20代前半と若いが、貯金は70万円を超えている。シェアハウスに住み、家にテレビはない。言葉づかいは丁寧で、言われたことはきちんと守る。上司に立て付くこともない。そればかりか、「いつか恩返しします」とトンデモナイことを口にしたりする。
その一方、できないことは、割と平気に「できません」と言えたりする。自己分析ができていると言えば聞こえはいいが、仕事に対する強烈なモチベーションに欠けると言えば、そうかもしれない。
しかし、どうやら彼のような存在は、珍しくないらしい。近ごろ、若い人たちが「マジメ化」していると言うのだ。堅実で、理性的で、自分に謙虚。一昔前の若者たちのように、夜な夜な合コンに励んだり、海外旅行へ出掛けて、ブランドものを買い漁ったりしない。仕事で大風呂敷を広げることもない。
彼らは、仕事は卒なくこなすが、言われた以上のことはしない。アフターファイブは上司の誘いを断り、早々に帰宅して自炊する。貯金はあるが、海外旅行の経験のない子も多い。ブランドものに興味もない。
じゃあ、彼らは何をしているのか? ――自己投資だ。
例えば、飲みに行かない彼らは、比較的早く就寝し、早起きする。「5時ラー」だ。そして、早朝から開講している語学講座やスキルアップ講座に出掛ける。今や、ターミナル駅周辺の雑居ビルでは、朝から英語や中国語を学ぶOLたちの姿をよく見かける。
週末も彼らは忙しい。皇居ランニングに励んだり、趣味と実益を兼ねたワークショップに出掛けたり――例えば、最近、女性向けのカメラワークショップが盛況だが、趣味ですら、彼らは自己流を好まず、学びたがる。
リーマンショック以降、求人倍率は減り、先の見えない社会になった。この先、生きていくには、自分自身をスキルアップするしかない――本能的に、彼らはそう考え始めたのかもしれない。それも自己流は避け、先人たちの教えを忠実に守り、効率的に身につけようとしている。
今から約5000年前の古代エジプトの碑文には、「最近の若者は……」と書かれた記述があるという。僕らも、最近の若者たちの優等生的な行動を見るにつけ、「もう少し遊ばないと」とか、「若者らしく、時には上司に逆らわないと」とか、愚痴をこぼしたくなる。
でも――人類の歴史が証明しているように、大抵、正しいのは若い世代である。