【前回】「「WIRED」創刊編集長ケヴィン・ケリー「バーチャル・リアリティで、未来の人間は何を得るのか?」」はこちら
「eスポーツ」の規模はとてつもなく大きい
筧:「エレクトロニック・スポーツ」(eスポーツ)に私が出合った10年前、その存在は世の中でほとんど知られていませんでした。私はこのeスポーツを普及させるために6年前に電通を退職し、専門の協会や会社をつくってきたのですが、ようやく最近になって、さまざまな場で話題に上るようになってきました。
日本では「スポーツ」といえば、体育や運動をイメージしますが、海外では「競技」や「楽しむ」という意味合いが強く、チェスやビリヤードもスポーツの範囲に入ります。ですから、コンピューター上で行われる対戦型の競技が、eスポーツということになります。ドラゴンクエストのように1人でプレーするゲームはeスポーツには入りません。
いま世界で最も流行しているeスポーツは、チームを組んで相手の陣地を攻め落とすタイプのゲームです。中にはプレーヤー人口が7500万人にもおよぶゲームもあります。これはサッカーや野球も含めた全スポーツ種目の中で4番目または5番目の競技人口になり、世界のeスポーツのプレーヤーは推定で1億人以上いるともいわれています。
最近は、人気サッカーゲーム「FIFA」がJリーグのマーケティング権を購入したり、プロサッカーチームの「マンチェスター・ユナイテッド」がeスポーツのチームを買収しようとしたり、ということも起きています。教育面では、スウェーデンやノルウエーの公立高校でeスポーツが授業に採用されています。
馬場先生は、こうした流れをどのようにお考えですか。
馬場:そうですね。10年前に私がゲームに関する授業を初めて行ったときは、本当に大変でした。授業開始10分前に学部長室に呼ばれて、「東大でゲームの授業を行っていいのか」と責められました。そこで「もちろん」と答えて、まず授業を見てもらったところ、「来週からも続けてよい」ということになり、今に至ります(笑)。
学術的にいうと、スポーツは、サッカーや野球のように実際に全身を使ってプレーする「フィジカルスポーツ」と、囲碁やチェスのように頭脳を使う「マインドスポーツ」の二つに分類されます。
しかし、eスポーツにはフィジカルとマインドの両方の要素が含まれます。当然、サッカーや野球でも頭は使いますが、eスポーツにも集中力や向上力、瞬発力といったさまざまな身体能力が求められます。eスポーツはこの二つの要素を合わせ持つ全く新しいスポーツであり、大げさにいえば、コンピューターを使いこなす最先端のスポーツでしょう。
筧:日本でも今年4月から東京アニメ・声優専門学校が、「eスポーツプロフェッショナルゲーマーワールドコース」を開設しました。そうしたところ、ものすごい勢いで生徒が集まったそうです。その様子を見て、私が把握しているだけでも2校の専門学校が来年eスポーツ科を開設します。
梅崎さんは専門学校で講師をされていますが、授業ではどのようなことを教えていらっしゃるのでしょうか。
梅崎:東京アニメ・声優専門学校で週1回、「プロゲーマー実習」という授業をしています。まさに、プロゲーマーとしての技を教えていて、生徒はプロを目指す18歳、19歳くらいの若者が多いです。
筧:藥師神さんも教えていらっしゃいますよね。
藥師神:はい、私は「マナー・契約概論」を担当し、マナー研修や倫理研修を行っています。プロゲーマーは基本的には個人事業主ですから、確定申告などの税の知識も必須ですし、著作権を含む基本的な法律知識についても教えています。普段、プロのサッカー選手やテニス選手とも仕事をしていますので、プロ選手に求められる知識についてのパッケージを持っています。そういった知識を、ゲームでプロを目指す子たちにも伝えることには意義があると考えています。
筧:個人事業主になるのですね。梅崎さん率いるプロチーム「デトネーションゲーミング」には雇用している選手もいますか?
梅崎:はい、私たちが雇用している選手もいますし、他のプロスポーツのような契約体系を取っている選手もいます。
筧:中山さんは個人事業主として、鉄拳のプロゲーマーとして、またインストラクターとしても活躍されていますね。
中山:今はそうですが、20歳から23歳までの3年間、ナムコ巣鴨店で「鉄拳」に特化したインストラクターとして、個人レッスンやグループ講習などを行っていました。今はフリーになり、各地のゲームセンターでイベントや講習会に出たり、大会の運営や実況解説などをしたりしています。