稗田 倫広(ひえだ ともひろ)
夢の稗田 クリエイティブディレクター・CMプランナー・コピーライター
電通九州、すき あいたい ヤバいを経て、夢の稗田株式会社を設立。主な仕事に、NHKアニメ「ムズムズエイティーン」、オロナミンC「CAP HEAD」、TOYOTA「G’s」「NEW TOYOTA 86」、TamaHome「ハッピーソング」、アイシティ「誰だ?」「丸見えの夏。」、柴咲コウ「こううたう」、Reebok「人間をきわめろ」、LINE MUSIC「音楽をLINEしよう」、adidas「円陣を組め、すべてをかけろ。」、東京メトロ「家でやろう。」、JEWEL CAFE「貴金属刑事」等。
正直言いますと、宣伝会議賞にはいい思い出がありません。
宣伝会議賞にチャレンジしていたのは大学生の頃。漠然と広告というものに興味を持っていた僕は、この賞の存在を知り、一発グランプリを獲って、広告会社にでも入ってやろうかと甘っちょろい考えを持っていたのでした。2、3度応募しましたが、結果は散々。一次審査を通過したのが最高記録でした。なぜあの時まったくダメだったのか、今となっては、よくわかります。
特に初心者の方には、これを読んで反面教師にしていただいた上で、チャレンジしてもらえたらと思う次第です。
1.ナメていた
コピーって、一見簡単そうですよね。一行バーンとしたの書けばいいんでしょ、楽勝じゃん、と。当時の僕はそう思っていました。コピー年鑑をペラペラめくって、書けそうな気分に浸りつつ臨んだ、初めての宣伝会議賞。全くダメでした。ナメてました。
今思えば、どこかで聞いたことあるような、「コピーっぽいコピー」を書いていただけ。自分の言葉ではない、誰かの言葉。誰もが考える視点。この「それっぽいコピーを書く」「コピーを撫でる」という行為から脱すること。これが初心者の第一関門のように思います。自分が本当に思ったこと、気づいたこと、感動したこと、それがコピーになるのです。
2.力んだ
コピーライティングの難しさを知った僕は、コピーライター養成講座を受講することにしました。とにかくたくさんの課題に取り組むことで、コピーを書くコツのようなものを少しずつ身につけていきました。たくさん書く必然というのはそこにあります。
講座の後半ではコピーを褒められることも増え、コピーの面白さがわかってきたその時分、やってきた2回目の宣伝会議賞。チャンス。大学4年で就職先も決まらず、焦っていた僕は、「ここで一発決めなきゃ人生終わる」ぐらいの勢いで、勝手にガチガチになっていました。コピーを自分らしく書く、その面白さ、楽しさを忘れ、悪い意味でまじめになってしまったんですね、それも実力のうちとも言えますが。
宣伝会議賞の良さは、その自由さにあります。企業の課題に応えることが前提ではありますが、「その手があったか」とクライアントの想像の斜め上をいく切り口を考えるところに醍醐味があります(実際の仕事でもそうですが)。正しいコピーは、ある意味つまらない。自分が面白がらないと、面白いコピーや企画はつくれません。邪心と煩悩を排し、力まず、自分らしく、リラックスして目の前の課題に取り組むことをおすすめします。
3. 数を書くことが目的になった
コピーを数書くことはとても大事です。何よりそれが自分の地力になるからです。でも無闇やたらと数書いても、あまり意味はありません。僕も「1000コピー」みたいな目標を掲げて書いたりしましたが、一つの鉱脈を見つけたらそこから離れられず、出てくるコピーは「てにをは」違いの似たコピーばかり。最後は出がらしみたいなコピーしか出なくなるという悪循環に嵌ったことがあります。100書いたと思って見直すと、大きく捉えれば1だったという。
ずっと一人で書いていると客観視できなくなることってありますよね。そんな時おすすめなのは「一人ディレクション」です。コピーの数を増やす前に、コピーの視点を増やしてみる。ここはノンクリエイティブです。例えば、その商品のいろんなベネフィットを考えてみる。いろんなターゲットを考えてみる。それだけで、10や20の視点が生まれるのではないでしょうか。そこからコピーでジャンプさせれば100くらいはすぐ到達します。
審査をしていてよく思うのは、似た視点のコピーがとても多いということ。コピーの視点を増やし、探し、吟味することで、他とは被らない、あなた独自のコピーが生まれるのではないでしょうか。コピーを数書くことは目的ではなく、あくまでプロセスなのだと思います。他とは違うコピーではなく、他とは違う視点のコピーを目指してください。
すみません、いろいろ思い返していたら長くなってしまいました。
宣伝会議賞というと、いつも思い出すのは、コピーがなかなか書けず、実家のベランダでタバコを吸いながら、徐々に白んでいく空を将来への不安とともに眺めていた、そんな光景です。二度と、あの頃には戻りたくはないけれど、あの頃がなかったら、今の自分はなかっただろうとも思うのです。
「過去に囚われるな。未来を夢想するな。今この瞬間に集中しなさい」。ブッダ様もそう仰っています。応募される方もさまざまな方がいらっしゃると思いますが、ぜひ一所懸命に目の前の課題に取り組んでみてください。広告制作はチームで行うものですが、突き詰めると個人です。一人でモノを考え、一人で決着をつける。その行為を宣伝会議賞という機会で、どうぞ楽しんでみてください。
日本最大規模の公募広告賞「第54回宣伝会議賞」は、11月11日13:00まで作品応募を受付中です。課題は好評発売中の「宣伝会議」10月号誌面をご覧ください。また、応募は公式サイトで受け付けています。