無名の、僕の最初の、コピーの師匠。

倉成英俊
電通総研Bチーム代表

クリエイティブプロジェクトディレクター。主な仕事に、JAPAN APEC 2010総合プロデュース、東京モーターショー2011/2013再復活戦略プロデュース、IMF世銀総会2012総合プロデュース、有田焼400年ARITA EPISODE2事業など。カンヌ国際広告祭、NY ADC、キッズデザイン賞、グッドデザイン賞他受賞。Twitter:@kuranary

 

広告クリエイティブ業界に身を置いて、17年になります。その間に色々な先輩方に技を教えてもらったり、盗んだりしました。澤本さん、神谷さん、黒須さん、岡野さん、英太さん、などなどなどなどなど・・・書ききれないので端折ります。今回は、その中でも、僕の最初のコピーの師匠について書きたいと思います。

名前は、ニシカワトモヒロさん。名前を知っている人はほぼいないと思います。そもそもコピーライターじゃないし、師匠だった時は映像プロダクションのPM(プロダクションマネージャー)でしたから。

出会いは1998年5月。僕は大学院を中退し、コピーライター養成講座に通っていました。当時は1クラス80人で、こどもの城が会場でしたね。夜、終わったら大体みんなで飲みに行っていたのですが、ある時「僕も行っていいですか?」と声をかけられました。それが西川師匠との出会いでした。僕が22歳、彼が23歳だったかな。飲み会の席に着いた第一声がこれ。

「実は僕は生徒じゃないんですよ。」
「は?」

「名古屋のコピーライター養成講座(?)に通ってたんで、東京はどんなもんか見に来たんすよ」。聞くと、その名古屋の講師の方がきっかけで、東京のプロダクションにこの春就職したとのこと。僕も、何とか働き口を見つけて業界にまず潜り込みたいと思っていたので、彼の話に真剣に耳を傾けているうちにとても仲良くなりました。講義ももちろんためになっていましたが、西川師匠とのやりとりが、このころ一番の勉強でした。当時のエピソードをいくつか紹介したいと思います。

エピソード1:

西川(以後ニ)「来週の課題、なに?」
倉成(以後ク)「つまようじのコピーですよ」
「わかった」
1週間後の講義の冒頭、事務局の方が名簿を見ながら叫びます。「西川さーん、西川さんいますかー?(返事なし)おかしいな・・・」
西川師匠は、講座に通ってないくせに、事務局に宿題を提出していました。

エピソード2:

毎週、講義の前後には電話がかかってきます。
「倉成くん、課題どうやって出した?」
「A4にコピー5本書いて出せって書いてあったんで、その通りに・・・」
「あかん。みんながA4で出すなら、B4で出さな。そんで、1枚に1本ずつ書かな」

エピソード3:

「倉成くん、今回の課題、なに?」
「そろばんですよ」
「何て書いた?」
「左利き用、新発売。って書きました(※1)
「あ、それ金の鉛筆獲るで(※2)

※1 これ、今考えると、なんのメリットも言っていないコピーですが、生まれて初めてほめられたコピーでした。そろばん=左右対称、ってことですね。「君の、コピーを楽しむ心に点を入れます」と講師だった斎藤春樹さんのコメントが書いてあって、嬉しかったなあ。

※2 有名な話ですが、コピーライター養成講座では上位10本のコピーに金の鉛筆の賞が出ます。

講義では、西川師匠の予想通り、賞に選ばれ、鉛筆をもらいました。
「どやった?」
「鉛筆もらいました!」
「で、どうやってもらった?」
「自分のコピーをホワイトボードに書くことになったんで、左利き〜のコピーを左手で下手に書きました」
「いい!でも、おれやったら、鉛筆削り持ってって、その場で削りながら席に戻るけどな」

彼から学んだことは、コピーのレトリックとかは1つもありません。そんなことばかり。つまり「やんちゃ」ってマインドですね。

初めてこうやって文章に、ニシカワさんについて書いてみたのは、日本全体にも、広告界にも、彼が僕に教えてくれたことが今、とても大事だと思ったからです。

もちろん、宣伝会議賞にこれから応募されようとしているみなさんにもね。

(そうそう。そんなエピソード以外では、当時の宣伝会議賞受賞作についてはかなり真剣に一緒に徹夜で話し合っていたんですよ。「蛍光灯が暗い病院は不安だ。」とか。読めない文字を書いて、「読めないぜ。フジテレビ」っていうやつとか。一緒によくそうやって飲みながら徹夜していた、寺尾学ぶさん(現CMディレクター)はその後すぐ「夏は片手で。冬は両手で。」っていうBOSSのコピーで賞を取られましたね)

ニシカワさん、ありがとうございました。


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「第54回宣伝会議賞」審査員
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