講演者
モンデリーズジャパン 取締役 マーケティング本部長 川鍋洋治 氏
お菓子以外とも競合する厳しい市場環境
モンデリーズは、世界規模で展開しており、売上規模は日本円にして3兆5000億円、菓子の分野ではグローバル大手企業のひとつです。菓子市場はオープンなマーケットで、さまざまなものが競合します。食品のみならず、スマートフォンやSNSなども、ターゲットの余暇の時間を奪い合うという点で競合となり得るのです。
また、消費者の嗜好はローカルごとに異なります。グローバルのスケールを持ちながら、マーケティングではローカルが主導権を握っています。そうした状況で、菓子メーカーとしてコアのビジネスをどうやって継続的に成長させるかが私たちの課題です。
潜在顧客層と低ロイヤリティ層に注目
成長戦略としては、既存のお客さまの購入頻度を上げていくよりも、新規のお客さまを増やしていくことを主軸に置いています。消費者の頭に入り込むこと、また実際に店頭に並んでいること。消費者とブランドとの接触機会を、いかに増やすかということが大切です。
マーケティング担当者にとっては厳しい事実ですが、一度も当社商品を買ったことがない消費者は相当数います。また、一度購入し、1年以内に再び購入する人の割合は55%ほどです。ですので、現在はコアユーザーよりも、まったく買ったことがない人・1回しか買ったことがない人を重要ターゲットに据え、マーケティング施策を展開しています。
ブランドのイメージを消費者に印象づけるためには、他のブランドと差別化できるロゴやサウンドマークなどを、新鮮さを保ちながらも継続して使用し、資産として残していくことも重要です。広告の ROIを向上させるために最も重要なドライバーはクリエイティブだと考えており、近年は、過去には実現が難しかったことにも積極的にチャレンジしています。
例えば、2014年には「ガムならハカどーる」キャンペーンとして、ガムを「効率性向上」と結び付けてイメージアップを図り、ガム市場全体の活性化を目指す広告をつくりました。また「ストライド」では、スマートフォンゲームの「モンスターストライク」とコラボレーション。普段は消費者の可処分時間を奪い合うライバルでもあるゲームを巻き込み、ガムとゲームを一緒に楽しむことを提案しました。
「クロレッツ」と「リカルデント」のキャンペーン「噛んで笑ってリフレッシュ! リフレッシュギャグ グランプリ」は、「お笑いをテーマに世の中をリフレッシュする」ことを目的としたもの。吉本興業の大物お笑い芸人を起用し、盛り上がりを見せています。
広告にAI活用など先進的な取り組みも
クロレッツの広告クリエイティブに、人工知能(AI)を活用するという試みにも着手しました。今年6月に、マッキャンエリクソンの協力のもと、クリエイティブディレクターがつくったCMと人工知能「AI-CD β」がつくったCMを一般投票で競わせる試みを行い、好評をいただきました。
結果は僅差で「人間」の勝ち。この試みを次につなげようと、「インターネット上のどんな言葉から、どんな消費者インサイトや、消費者が感じるブランドのベネフィットを把握できるのか」をAIを活用しながらマッピングし、広告エージェンシーなどへのブリーフィングに役立てる取り組みを進めています。
一般消費財の成長戦略として、重要なのはもはやテレビCMをはじめとするマス広告だけではありません。AIのような最新技術の活用も含め、新しい手法・表現に挑戦しながら、いかにペネトレーション(市場への浸透度)を高めていくのか、そして人々の興味関心を引き出すクリエイティブをどうつくっていくのか。このことを念頭に置かねばならないと考えています。
次回の宣伝会議主催イベントは、4月26日・27日の2日間にわたり、東京国際フォーラムにて開催します。テーマは「仕事と自分のトランスフォーメーション “顧客”の時代に新しい役割を見つける」。
あらゆる領域でデジタル化が加速する中、企業でマーケティング・コミュニケーションに携わる人は、顧客の変化を捉え、それに合わせた戦略を構築・実行するために、従来の延長ではない、新しいスキルを身につけることが求められています。
顧客中心の時代、マーケターの仕事やスキルも、いかに“顧客中心”へとシフトできるか。さまざまな立場でマーケティングの最前線に携わるキーパーソンが集まり、議論を深める2日間です。どうぞご期待ください。
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