福島「米問屋たさぶろう」が、地域のクリエイターと組む理由

『100万社のマーケティング』は、「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介する専門誌です。記事の一部は「アドタイ」でも紹介します。第10号(2017年2月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

地域に根差す企業とクリエイターがパートナーとなり、新しい価値を生み出した事例を、手がけたクリエイターが自ら解説。今回は東北エリアの事例です。

今回ご紹介する仕事は、福島県白河市の 米問屋たさぶろう(齋藤商店)の、お米のパッケージデザインです。

齋藤本家は文化元年(1804年)に創業し、200年以上の歴史を誇ります。創業した当時は造り酒屋、その後、木材商、菜種油脂工場、地元銀行などの経営を経て、戦後、小作であった農家さんとのお付き合いが再開し、米問屋になりました。

取扱品種は白河産コシヒカリ・ひとめぼれ・天のつぶ・ミルキークイーン・こがねもちなど。銘柄で判断されがちなお米ですが、土壌や水、気候、生産者によって、ごはんの炊き上がりは大きく変わります。

確かな生産者からお米を大切に集荷し、良い状態で消費者に届ける。これが奥州・ 白河に根づいて、たさぶろうが続けてきた商いです。少人数世帯向けの2合小分けパックから贈答用、業務用まで幅広く取り揃えています。

デザインのモチーフは、白河市の文化でもある、白河だるま。

歴史を再発掘し、受け継いでいくデザイン

先代父から受け継がれた歴史を、さらに 次の世代へと受け継いでいく、CI・リデザイン案件です。まず、クライアントから依頼されたのは、既存パッケージのリニューアルでした。

今までは社内で試行錯誤しデザインを考え、お米のパッケージをつくってきたのですが、新たなブランディングを仕掛けるにあたり、全く新しいデザインを制作していくことになりました。

今までの既定販路であったスーパーなどの小売り販売のみならず、アパレルショップなどのライフスタイルブースにも陳列できるようなラインアップを揃えること、また催事や挙式など、ギフトやインテリアにもお米が選ばれるような新しい米問屋のスタイル構築を目指すことになったのです。

包装内の空気を脱気する「脱気真空包装」、脱気したあとに窒素ガスを充填する 「窒素ガス充填包装」。お米の鮮度を保ったままお客さまのもとに届けるパッケージに、白河市の文化でもある「白河だるま」をモチーフとしたデザインを施しました。商品を手にした方々が、いつか故郷を思い出せるようにとの思いを込めています。

デザインをしていく上で大事にしたのは、クライアントの辿ってきた歴史を今一度、掘り起こし、現代にその名残を滲ませ、「この地域だからできる」という根拠を見つけることでした。つまり、コンセプトづくりですね。そこだけは、何があってもこだわらなければならないところでした。

地域のデザインは経営視点も求められる

プロジェクトを進めていくにあたって、まず行うアクションは、クライアントのビジネスのリアルな現場に、自ら足を運ぶということ。農家であれば畑に行くし、漁師であれば漁船にも乗ります(笑)。

実際の仕事を体験させてもらうことで、「クライアントとデザイナー」を超えた、人間同士の信頼関係が生まれます。クライアントと同じ体験・経験をすることで、ビジネスにおけるデザインの必要性を共有することができる。デザインのテクニカルな要素にばかり頼らないよう、常に心がけています。

地域でクリエイティブに取り組むことの良さを率直にいえば、お客さまと近いところで仕事ができることですね。悪いところといえば、デザイン領域以外のタスクが多いということ。そして、デザイン以外の知識も必要になるということ。例えば経営的な視点などです。かなりタフな仕事だと思います。

デザインリテラシーが高くない地域では、デザイナーと仕事をすることで、頭の中の情報整理ができます。思考プロセスにデザインを取り入れることが、地域を拠点とする事業者にとって、大きなメリットと言えるのではと考えています。  思考デザインは、地域、そしてそこで商いを行う企業が生き残るための、大きなポイントとなるはずです。

佐藤哲也 Tetsuya Sato
Helvetica Design 代表取締役

クリエイティブディレクター。1974年生まれ。法政大学経済学部卒業。大手アパレルブランドのプレスを経て、故郷・福島へ戻る。CUNE WORKS PROJECT アートディレクター・デザイナーとして独立。2011年 Helvetica Designを設立。

 

CLIENT’S VOICE

デザインの力も取り入れながら、次代の米屋の価値を創出したい

ただお米を売るだけではなく、食卓をプロデュースしていくことが、米文化の再普及と、次代の米屋の価値創出につながると考えています。例えば、テーブルウエアからの提案や、お惣菜視点でのお米の選択肢を増やすなど……。バックヤードの脇役から、パスタストッカーのポジションになれるようなコンセプトやデザインに力を入れています。ヘルベチカデザインは、さまざまな業種の仕事をしており、新しいアプローチを開拓できる可能性を感じました。

齋藤孝弘 Takahiro Saito
斎藤商店 代表取締役

 


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