アウディが脳科学を取り入れた理由
—アウディジャパンがマーケティング活動に「脳科学」を導入した背景から教えていただけますか。
後藤:従来の調査への限界を感じていたことが大きいですね。たとえば我々は、シングルソースパネルを用いて、当社のテレビCMに接触した人のログデータを収集しています。あるとき、この動きと並行して自記入式調査で「あなたはこのテレビCMを見ましたか?」と聞きました。
すると、ログデータを見ると「接触している」にも関わらず、自記入式調査では「接触していない」と回答する人が多数出てきたのです。そもそも自記入式はバイアスがかかるものですし、このような状況では調査結果への信頼性に疑いが生じてしまいます。
そんなときに、視聴者の反応をバイアスがかからずに調査できる方法があると聞いて、まずは試してみようと思いました。
—どのような調査をしたのでしょうか。
後藤:NTTデータの「DONUTs」を使って、テレビCMを見ている人の脳の状態を調べてもらい、我々が伝えたかったメッセージがきちんと伝わっているのか分析しました。
茨木:「DONUTs」は、テレビCMなどの動画広告を見ている人の脳活動を「機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)」という手法を使って計測し、その脳活動パターンから視聴者の知覚内容を解読します。
たとえば、男性の走っているシーンに対して「かっこいい」と、どの程度知覚されたか、脳活動から推定します。これらの技術はNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)・CiNet(脳情報通信融合研究センター)と共同で研究開発・応用を進めています。
—脳の活動を調べることで、視聴者が感じていることを言語化できるのはすごい技術です。最新の脳科学は、そこまで進んでいるのでしょうか。
茨木:はい、このテクノロジーを実現するためには「脳科学と機械学習(人工知能)の融合」が必要でした。まずは複数の被験者にfMRIスキャナに入ってもらい、多種多様のテレビCMを、合計2時間分見てもらいました。そうすると「男性が出ているシーン」「電車が走っているシーン」など、さまざまなシーンごとの脳活動が記録されていきます。
そして、そのデータを人工知能が学習していき、「CMのシーン」と「脳活動」との関連性を見つけていくのです。その結果、「楽しい」「かっこいい」など約2万単語の辞書と脳活動のパターンの間の関係が学習され、従来は難しかった広告クリエイティブの質を定量化できるようになりました。
—実際にアウディのテレビCMでは、どのような結果が出ましたか。
後藤:我々がテレビCMで狙っていた「かっこいい」「革新的」「速い」といった単語に対する評価を調べました。その結果、「革新的」「速い」に関しては良い結果でしたが、「かっこいい」についてはスコアが低く出てしまったのです。
どこかのシーンで極端に「かっこいい」が下がったのであれば、原因が判別できたのですが、CM中ずっと低くて、最後のロゴのシーンだけ上がるのです。改善点を探すのは難しいですが、現状把握の第一歩として、ありがたい情報を得たと思っています。
矢野:「DONUTs」は、訴求意図がどれだけ被験者に伝わっていたのかを時系列ごとにスコア化できる点がメリットです。今回は全シーンで下がっていたため改善点が見つかりづらかったのですが、どのシーンでスコアが上下したのかを調べられます。
—広告効果の調査手法を大きく変える可能性を「DONUTs」に感じます。どのような特徴がありますか。
矢野:はい、我々の技術は大きく4つの特徴があります。まず1つ目が消費者の反応(知覚内容)を脳から時系列にリアルタイムに取ることができること。動画のシーンごとの反応が分析できるのです。
2つ目が、広告で伝えたかった訴求意図が、どれだけ伝達したのか定量的に把握できること。視聴者が意図したメッセージどおりに反応してくれているのかが分かります。
3つ目が、企業が持つ従来からの広告指標と組み合わせることで、クリエイティブの効果予測モデルを構築できる点です。たとえば認知率、好意度、購入意向といった各社の重要指標とクリエイティブ(に対する脳の反応)を結び付けられます。
そして最後の4つ目が、企画段階の絵・ビデオコンテを調査することで、効果の予測やクリエイティブの選定に役立てられます。
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