自分がモノを買う時にわかった、広告コミュニケーションのちぐはぐな現状

購入商品を決めた後に「バナー広告」が追いかけてくる

今日の話は、前回の記事のどこか続きみたいな内容です。前回を読んでない方は、ざざっと目を通してもらうと今回の内容もわかりやすいと思います。
→「ネット広告はもう一度“広告”にならないといけない

はい、読みましたか?では本題に入りますよ、いきなり。

私は今、クルマを買い替えようとしています。前のクルマはもう10年以上乗っていて、というかある時期からすっかりクルマに乗らなくなっちゃって、10年以上ほったらかしていた感じです。買った頃はリーマンショック前で一昔前の業界人の感覚で、大してクルマに詳しくもないのに欧州車で3000ccでした。

毎日帰ると、家の前にバーン!とほとんど乗らない欧州車3000ccがバカみたいに置いてあって、ほんと昔の業界人(=自分)はバカだったよなあと反省していました。

さすがに10年経ったし買い替えよう、今度は業界人ぶらないで安くて燃費のいい国産のハイブリッドにしよう。そう決めて探し始めました。ハイブリッドと言えばプリウスかなあ、などと少ない知識で「〇〇〇(メーカー名) ハイブリッド」で検索している自分がいました。そしたら今、ハイブリッドは各社いろんな車種があるんですね。

CMで覚えているイメージを元に、2社のメーカーから3〜4車種を選んで試乗して決めていきました。

その時、あれ?と気づいたんです。CMによるイメージを元に、いきなり検索して出てきた車種から選んでるんですね。ずいぶん直裁な選び方だなあ、おれ。どこか物足りない感というか、こうやって選んでいっていいんだっけ?クルマってどうやって選んで決めてたっけ、と何だかわかんなくなっちゃいました。

それで気づいたのですが、自分の頭の中の様々な車種についてのイメージが薄くなっていたんですね。そんなにクルマ好きじゃなくても、それなりに知っていたつもりだった。普通に暮らしていれば昔は頭の中に入ってた“基礎イメージ”みたいなものがすっかり無くなっちゃってた。

それからもう一つ面白かったこと。試乗も済ませて2つ3つくらいの中で決めようと思っている時、もう少し調べておこうとネットを眺めていると、ものすごい勢いで多様なメーカーの、多様な車種のバナー広告が私のMacを埋め尽くしたんです。

「はいはいはい!」「どうですかこれ?」「いやこっちも見てください!」。

もちろん私がクルマメーカーのサイトに行ったり、車種で検索したからでしょうね。ターゲティングされてるわけです。

なんか、バカじゃね?と思いました。おれもうお前らのこと興味ないから、あれか、あれにもう決めてるから。ていうか、おまえ誰?バナーだけ差し出して「はいはいはい!」って叫ばれても何もわからんし。そんな気持ちです。B級な観光地で土産物屋の客引きがこぞってアピールするのと似ている。

これね、このところ書いてきたことと照らし合わせると、こういうことなんだなと思いました。

モノを買うに至るコミュニケーションで、10年くらい前までは左のようなファネルが成立していました。でも今は右です。「ネイティブ広告ハンドブック2017(※PDF)」で指摘されていたように、ファネルにミッシングリンクができちゃってる。

具体的に言うと、私がここ数年、新聞雑誌にあまり接触しなくなったもんで、でもテレビは見ているもんで、車種を知ってはいても知ってるだけになってるんです。よくは知らない。だから選択肢の中に入るのが数車種になっちゃった。検索で出てきてイメージが湧くものがとても少なくなってるんです。

そんな情報収集をしているとバナー広告が出てきました。でも少なくとも私には関係なかった。というか、バナーの出方がマヌケ過ぎでした。ほぼ決めてからターゲティングしてきても意味ないじゃん。

ネット広告は、マス広告と違ってターゲティングできるので無駄がない。いやいや、クルマのサイトを見たらうちのクルマ欲しいでしょうって、全然ターゲティングされませんでしたから。「はいはいはい!」ってバナー差し出すことに、どういう広告効果があるのでしょうか。

さらに今回のクルマ選びから、もっと深刻な状況を体感しました。

次ページ 「ネット広告界は「文化」を見直すべきかもしれない」へ続く

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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