【前回の記事】「20世紀の成功体験から、21世紀のマーケティングは生まれづらい」はこちら
新人クリエイターがぶつかる最初の壁
新人クリエイターがぶつかる最初の壁をご存知ですか。
例外はあるかも知れませんが、私の知る限り、広告制作の現場に配属された新人の多くが、ある壁にぶつかるようです。もちろん私自身もこの壁にぶつかり、大いに悩んで苦しみました。
その苦しみを乗り越えることができたのは、良き先輩のおかげでした。広告クリエイターの世界では師弟関係が見受けられる場合が多いのも、壁を乗り越えために自分自身では気づかない客観的なアドバイスが必要だからだと思います。ポイントをわかりやすくするために、コピーライターを例に解説します。
例えば、コピーには企業やブランドが抱えるさまざまな課題を解決するという目的があります。そこでコピーライターは、いろいろな情報を頭に入れてコピーを書くことになります。どういう視点で述べれば生活者にわかってもらえるのか、どんなことをメッセージにしたら、生活者にうまく伝わるのか、あらゆる発想を駆使して一生懸命に書きます。
しかし新人が最初に書いたコピーは、先輩からダメ出しされる場合が多いようです。それらのコピーには共通して「欠けているもの」があるのです。
それは、コピーを読む「相手」の存在です。
相手にとって受け取りやすいボールを投げることが大切
新人コピーライターがぶつかる最初の壁を一口に言えば、「自分がいいと思ったことを一生懸命に伝えれば、相手に伝わるはずだ」という発想が前提になっていることです。本当に不思議ですが、これは多くの新人クリエイターが陥りがちなポイントで、なかなか乗り越えられない壁です。
つまり、キャッチボールで言えば「自分が投げたいボールを一生懸命に投げれば、相手が受け取ってくれるだろう」という発想に近いでしょう。
しかしコピーでも、キャッチボールでも共通して重要なのは、「相手にとって受け取りやすいボールを投げる」という発想の転換です。そもそも生活者は、広告コピーを見ようと思って、目を見開いて暮らしているわけではありません。あえて言えば「無関心」なのです。では、どうしたら自分に関係があると思ってもらえるのか。まず、そこを出発点にしないと、そもそも届かないというわけです。
どんなに工夫を凝らした豪速球も縦横無尽の変化球もコースが外れていては、相手は受け取ることができません。キャッチボールを例に言えば、相手の胸元に向かって投げなければ、受け取ってもらえないのです。
これはコミュニケーションの基本と考えることができます。つまり、相手がいて成り立つものなので、受け手を考えた思考が大切だというわけです。そこには送り手が一生懸命に考えたことや、経験を踏まえたものだということは、ほとんど関係ないというわけです。