アウディジャパンが語る「CRMの目的はブランド資産の構築」
セミナーは、アウディジャパンのマーケティング本部デジタル&CRMマネージャー・井上大輔氏による「拡大するCRMの地平線 LTVだけに留まらないKPI設定で差を生む」と題した講演で幕を明けた。
冒頭で井上氏は、「CRMの成功事例はほとんどこの世に存在しない」と問題提起。その理由として、「LTVやNPS®などの顧客ロイアル度が指標になっていないものをCRMと呼ぶことはできないなか、ポイント施策やMAの導入などいわゆるCRM施策の多くがPL上の売上向上を指標としている。成功事例は多いとしても、それはあくまでセールスプロモーションとしての成功事例だ」と解説した。
本来のCRMは、既存顧客のロイヤルティという「資産」を構築する施策であり、その意味ではPLマターではなくBSマター。同じくPL上の売上のみならず「資産構築」を目指すブランディングと似た概念であると説明した。しかし、顧客資産指標は定量化こそできるものの、金額化が不可能なため苦労するという。
「CRMの成果を測る指標としてよく挙げられるものがLTV・NPS®・CSである。しかし、いずれも資産として明確に『金額化』することができないため、CRMの投資対効果はなかなか測られにくい。この状況ではCRM施策の価値を伝えることが難しく、だからこそ企業はセールスプロモーションと同じKPIを追ってしまう」。
では、金額化が難しい中で、どのようにしてCRM施策の価値を測り、周りを説得すべきだろうか。井上氏は「ブランディング」にこそヒントがあると述べる。
「CRMと違い、ブランディングに多額の費用を掛ける企業は多い。なぜなら、経営層の中に『ブランドの資産価値は金額化できないが、企業にとって非常に重要な資産である』といった認識があるからだ」。
さらに井上氏は、「市場が成熟化すると、機能的な価値だけでの差別化は図れなくなる。この状況下において、商品やサービスを選択時に想起してもらい、その中から選択してもらうためには、消費者の中にブランドの印象が残っていないといけない。さらに、ロイヤルティはそのいずれに対しても強力な武器になる」と、CRM活動を通して資産を形成する重要性を説いた。
ブランドや顧客ロイヤルティという無形資産がいかに有益なものか。それを裏付けるストーリーとして、幼い頃にCMで見かけていた「鯉のエサ」のブランドに触れた。
「当時、商品の販促をされていた宣伝部の方も、まさか30年後に私がここで商品の話をしているとは予想していないだろう。30年メンテナンスせずにおいても、衰退せずに生きている。そのような資産は他にない。また、それほどに、ブランドの持つ資産価値はいい意味で計り知れない。今この時代において、ビジネスの雌雄を決するのは、そういった無形資産、ブランドであり顧客ロイヤルティである。そして、醸成されたブランドへの理解・共感とロイヤルティは、有形資産に比べると普遍性が高く何十年も顧客の心に残る」。
最後に、井上氏は「ブランド資産を構築するには、体験をデザインしていくことに限る。体験の創出方法は多岐に渡り、必ずしも1to1の施策である必要も、経済的便益を提供する必要もない。施策を行うときに気を付けるべきは、実施後に『いくら儲かったのか?』という話に終始しないように、顧客のロイヤルティは資産である、というコンセンサスをまずは社内に醸成することだ、と締めくくった。
「顧客のロイヤル化」を助ける大広の顧客創造プラットフォームとDMP
第2部は、大広のアクティベーションセンター 大阪第1グループ 部長の土屋徹氏とアクティベーションデザイン統括ユニット大阪プロデュース局第1グループ部長の澤田善郎氏が登壇した。
まずは土屋氏が「販促キャンペーンからはじめる顧客マネジメントとは?」をテーマに、顧客のロイヤル化が必要になった時代背景を説明する。
「量販店やコンビニでは、ナショナルブランドがプライベートブランドに棚面積で負けている。また、店舗の棚に置ける数も限られているため、各カテゴリのシェアトップもしくは2位の商品しか陳列してもらえない状況もある。そうした中で大手メーカーは、新商品開発からロングセラーブランドの育成へと軸足を移しており、『市場の育成』と『顧客の育成』の両方が必要になっている」。
特に土屋氏が着目しているのは「顧客の育成」だ。長く商品を購買し、愛用してくれる「真のロイヤル顧客」を作るためには、リピーター育成とファン育成の二軸が必要だという。それぞれの例として、リピーター育成のための販促キャンペーンやポイントプログラム、ファン育成のためのコミュニティ作りやファンイベントの開催を挙げた。ただメーカーが、顧客を育成するうえでの課題もある。
「メーカーは小売店に商品を卸すため、顧客の購買データを保有していない場合が多い。さらに、食品や日用品の場合、消費者が意思決定の際にWebを詳しく参照することは稀有なため、Web上の行動データもほとんど保有していない。つまり、ロイヤル顧客の傾向を見出せていないことが、育成するための施策を打ち出せていない理由である」。
この課題解決の役割を担うのが、大広が開発した顧客創造プラットフォーム「Campaign LAB」である。「Campaign LAB」は、オープン・クローズドを問わず、企業がキャンペーンを実施する際に必要な機能を備えている。また、顧客情報の収集・分析結果を踏まえた最適なチャネルでのメッセージ発信も行うことができる。いわば、認知・データ蓄積・リピート促進といったマーケティング施策の一連の流れにワンストップで対応できるツールだ。
土屋氏は締めくくりに、「現状、販促キャンペーンは短期的な売上向上を目的に行われがちである。この目的に加えて、長期的な顧客育成の視点を備えたキャンペーンの運営を助けられるツールが求められている」と述べた。
続いて澤田氏は、「簡単にアクティベーションデザインを実践できる、新たなDMP」をテーマに登壇。大広が提唱している「アクティベーションデザイン」について説明した。
「アクティベーションデザインとは、一言でいうと『顧客のロイヤル化』という考え方。これまでは、認知からロイヤル化までを、購買行動だけを見て判断することが多かった。しかし、よく買っているけれどブランドにロイヤルティを持っていない、見せかけのロイヤル顧客もいる。その一方で、購買はしていないものの、周囲にブランドを推奨してくれるファンもいる。買っている人=ファンという考え方を脱却し、行動もロイヤルティも備えている人を増やしていくことが大事。そのために、認知からロイヤル化までの顧客の動きを、購買行動と感情の二軸で測るサービスを提供している」。
実際の調査結果を用いて、各業界・企業の顧客分布を紹介。たとえば、シャンプーのような日用品であれば、ブランドに特別なこだわりを持つ顧客は多くない。そのため、購買回数が多い顧客群の中にロイヤルティがない顧客も混ざっている。一方で、車のような高級商材は衝動買いが少ないうえ、性能やブランドの特徴をよく理解して購買に至る顧客が多い。こうした場合、購買行動とブランドロイヤルティは比例しやすく、かつ高級車になればなるほど、その傾向が顕著だという。
解説を交えつつ、澤田氏は「どの顧客の引き上げを目的にするかで、最適なプロモーション方法は変わる。今、自社が打つべき施策は何かを決める際に、顧客分布の把握は有効である」と語った。
大広は現在、この顧客分布図をダッシュボードで参照できるツールを開発中。購買履歴、Web上の行動履歴、属性データなどをもとに顧客分析を行い、行動と感情の二軸で顧客分布を表すことはもちろん、分布図の中にいる個人の特定も可能になるという。
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