【前回の記事】「広告クリエイターこそ「顧客視点」のコミュニケーション設計に向いている」はこちら
「広告を考えること」は「時代の空気を呼吸すること」
「広告は時代を映す鏡」という言葉があります。
商品や企業が元気であれば、広告も元気になります。画期的な商品が生まれれば、広告も驚きに満ちたものになります。さらに広告は生活者に対するものなので、その時々の人の暮らしが自然と反映されていきます。
そうした広告の時代性や社会性を言い当てたのが冒頭の言葉です。この事例として挙げられるのが、バブル景気の真っただ中の1988年に発売された栄養ドリンク「リゲイン」の広告です。「24時間、戦えますか」というキャッチフレーズで一世を風靡したCMを覚えている人は多いでしょう。
誰もががむしゃらに働き、夜通し遊び続けた当時、「24時間、戦えますか」は、時代の空気を見事に言い当てたコピーだったわけです。しかしワークライフバランスが重視され、働き過ぎが問題になっている今の時代、このコピーは明らかに問題があるでしょう。
広告クリエイターは「時代の空気感を読む力」が必要なのです。そして、いかに時代にフィットする表現やメッセージを考えられるかが常に求められているというわけです。
広告を考えるとはどういうことなのか
ここに1991年の「TCC広告年鑑」があります。
1991年はバブル景気の後期です。当時は、先ほど述べたリゲインが大活躍し、経済も活気にあふれ、世の中全体がイケイケムードの時期でした。そうした時代のおおらかさも手伝ってか、この時期の広告は勢いのある名作が多いのが特徴です。
そのTCC広告年鑑の冒頭に、編集委員長であるコピーライターの一倉さんは序文を寄せています。以下、抜粋して掲載します。
大変だけど、幸福な仕事。
(前半略)
私たちの仕事が幸福である理由は、別のところにあるだろう。
衒いなく驕りもなく言えば、それは幸福について考える職業であるからだ。
なぜなら、私たちが単なる「幸福の安売り屋」になった時、
私たちの表現はもはや、人と何のコミュニケーションもなさない。
送り手と受け手の関係は、そこまで育ったのだ。
一片のジョークでさえ、そうである。
人の心は動きにくく、しかし、揺り動かされて ほろころぶ。
それを見つけることは、大変だけれど、幸福な仕事ではないだろうか。
(コピー:一倉宏)
この序文は当時の広告人たちの心を打ち話題になりました。
当時はバブル後期の華やかな時代です。しかしそうした時代の空気に流されることなく、一倉さんはちょっと冷静に「改めて考えてみませんか」というトーンで私たちに語りかけたのです。この時代を読む目に、今更ながら尊敬です。
ここで一倉さんは、広告業界で働く価値や意義について語っています。そして数ある価値の中から「広告について考えることは、人の幸福について考えることなのだ」と指摘しています。
この視点に、広告業界で働く私たちの仕事が再定義されたような、そんな素敵さを感じるのは私だけではないはずです。そして、この視点は時代を超えて今こそ大切にされるべき視点だと思うのです。