ACC賞フィルム部門 澤本嘉光 審査委員長「CM業界だけで閉じない審査をしていく」

ACCが主催するアワード「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS(ACC賞)」。そのフィルム部門の新審査委員長である電通 澤本嘉光氏は、審査にあたって「広告を広告する審査にしたい」というメッセージを出した。前任のラジオCM部門審査委員長で培った経験を活かしながら、どのような方針でフィルム部門の審査にあたるのか。フィルム部門の審査委員を務める、宣伝会議 取締役 メディア・情報統括の田中里沙が聞いた。

電通 クリエーティブ・ボード/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 澤本 嘉光氏
1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・ チョ!」、家庭教師のトライ「ハイジ」など次々と話題のテレビCMを制作し、乃木坂46、T.M.RevolutionなどのPV等も制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ。映画脚本も担当。)映画「ジャッジ!」の原作脚本。東方神起などの作詞も担当している。

テレビとCMを近づける。

田中:澤本さんが審査委員長になられて、審査委員も一新されました。幅広いバックグラウンドを持つ方々が審査に加わりますが、審査に当たるスタンスをお聞かせください。

澤本:ラジオの審査委員長を5年やってみて、とにかく楽しかったし、審査委員長になるといろいろ変えられるということがわかったんです。というか、最初は2年間という約束でお引き受けしていたんだけど。

田中:(笑)ラジオと言えば澤本さんだから。

澤本:ラジオCM部門の前任だった小田桐昭さんに寿司をたらふくごちそうになって、食べ終わってから「澤本くん来年やって」と。もう戻せないんで、引き受けるしかなくて(笑)。タダよりこわいものはないですね。

で、それまでの審査委員を見てみると、ラジオを“つくる人”ばかりだった。自分たちの間で相互に選んで「いい」「悪い」と言っていてもしょうがない。選ぶのなら、選んだ結果を世の中に届くように発表することで「ラジオCMが元気だよ」と見えるようにしたいし、若手がこの賞を獲りたいと思うようにしたいし、一般の人も「おもしろい」と思えるものにしたいと思ったんです。

まず、審査委員に“つくる人”だけでなく、ラジオを“放送している人”も入ってもらおうと、若い人に最も聴取率のよいTOKYO FMのラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」に出演している、お笑いトリオのグランジ 遠山大輔くんに入ってもらいました。ラジオに異常に詳しい芸人さんがいると聞いて、そのダイノジ 大谷ノブ彦さんにも頼んで。とにかく審査委員を選ぶ時に、「ラジオ好き」ということを基準にしたんですよ。それで審査をしてみたら、審査会がすごくおもしろかったんですよ。

宣伝会議 取締役 メディア・情報統括 田中里沙
広告・マーケティングの専門雑誌「宣伝会議」編集長を経て、「ブレーン」「販促会議」「広報会議」「環境会議」等を統括する編集室長に就任。デジタル版およびアドバタイムズの創刊を行い、取締役メディア・情報統括、現在に至る。新規事業、地方創生の研究と人材を行う事業構想大学院大学の教授を兼任し、2016年より学長に就任。国、自治体、行政が取り組む事業及び研究に広報・宣伝領域から参画している。

田中:ラジオ好きが集まったからですね。

澤本:ラジオ好きが、好き勝手言うから。昨年はラジオ好きアイドルの乃木坂46の橋本奈々未さんをお呼びしました。これまで「若手に対してのメッセージとして選びたい」とか言っているわりに、20代の審査委員がいなかったんですよね。

そうしたら彼女の感想が、いちいち的確なんですよ。「この言葉は20代みんな知っています」とか、僕らの知らないことを知っている。今までは、選んでいる人がおっさんだから、選ばれていなかったラジオCMも多分あって、その発見を彼女がしてくれたんですね。それを含め、審査委員をやると自分がすごく勉強になる。それで楽しくて5年やっていたら、フィルム部門の審査委員長もやることになってしまって。一応2年でやめていいと言われているけど。

田中:過去にそんなこともありましたね(笑)。

澤本:やるとなると、初年度が大きく変えるチャンスじゃないですか。僕はテレビCMは今、自分から存在感をアピールしていかないといけない時期だと思っているんです。それでまず何より、審査委員の中に僕が素晴らしいと思う番組をつくってらっしゃる、バラエティ番組とドラマのプロデューサーをお呼びしました。テレビという同じ画面を通して見るメディアと一緒にテレビCMを評価すべきで、CM単体で評価するものでもないと思ったんです。バラエティやドラマという一般の人に広くウケなきゃいけないものをつくる人の視点ではどうかと。

また逆に、彼らにCMにどういうものがあるかを知ってもらって、そのうえでご自分たちの番組を考えてもらえるきっかけにもなればと思うんですね。そうすればテレビ番組とCMはもっといい影響をしあえて、テレビ自体が元気になる。また彼らが来てくれることで、番組側の人たちがこっちを見てくれるじゃないですか。

田中:そうですよね!

澤本:テレビとCMがもっと協調していって、いいものをつくっていくべきだというのがずっと持論で。それで電通のテレビ局を兼任したんです。

田中:そんなことをする人は、最初で最後かもしれない。本当にあの時は感動しました。テレビの大きさやお茶の間での見られ方までを想定してCMをつくるような人は、澤本さんが初めてだったから。受け手の視点で作るってこういうことだなと。

澤本:その延長線上で、“審査委員長”を使おうと思っているので。やってることは、ずっと同じなんですよ。

田中:でもやり方は進化している。視聴者は番組とCMを切り離して見ていないですからね。

澤本:テレビ局を兼任した当時に比べて、ずいぶんテレビとは仲良くなってきていると思うんです。ワールドカップのハーフタイムがCMのお祭り的になっていたり。流す場所と内容の関係は、実は大切です。

テレビというものは番組とCMで成り立っているので、両方おもしろくしていくということが大事だと思うんです。テレビ局とCMをつくる人がもっと密に連絡を取って提案しあえるような環境、きっかけをつくることに“審査会”を使いたいと思ったんですよ。

メッセージに「一番の目標は、楽しく審査すること」と書いたのは、審査会が楽しければ、その場で審査委員同士でそういう話になったりするじゃないですか。それが、僕としては一番目標とすることなんです。テレビというメディア自体のために。

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