7月26日、楽天と電通は記者会見を開き、共同で「楽天データマーケティング株式会社」を設立する旨の発表を行った。
楽天データマーケティングでは、ビッグデータを活用した新たなマーケティングソリューションの提供を目指すとしている。出資比率は楽天が51%、電通が49%で、社長にはヤフー、グーグル、アドロールなどで要職を務めてきた有馬誠氏が就任した。有馬氏は楽天の副社長執行役員兼CROも兼務する。新会社は10月より営業を開始する。
記者発表会に登壇した有馬氏は「国内の楽天会員数は約9000万、楽天スーパーポイント発行数は累計で1兆ポイントを誇り、質と量と兼ね備えたデータが楽天グループの強み。電通が持つ顧客基盤・戦略構築力、クリエイティブ力、マスメディアのデータインサイトと楽天グループのビッグデータを融合させることで、マーケティング業界のイノベーションを起こしたい」と話した。
具体的には「両社が組むことで、テレビCMが実際にどれだけ購入につながったのか、効果検証も可能になる」と説明。楽天データマーケティングでは楽天市場などオンラインチャネルでの購買だけでなく、楽天スーパーポイントなどのネットワークも活用し、リアル店舗での購買行動も検証していく考え。
有馬氏は「マス、デジタル、そしてリアルの店頭まですべてをつなげることができると考えている。ファネルの上から下まですべてを垂直統合させたマーケティングを実現したい」と構想を語った。
電通側からは電通デジタル・代表取締役CEOの榑谷典洋氏が登壇。榑谷氏は「両社の力を合わせることで、現代のデジタル環境に適合した強力なソリューションが実現する」とコメントした。
さらに発表会には楽天・代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏も登壇。三木谷氏は新会社が提供しうる価値として現時点で想定することとして「(広告の購買に与える効果を検証することで)テレビをはじめとする既存メディアの広告出稿の最適化が図れる、楽天のメディア内のデジタル広告のオプティマイゼーションが図れる、楽天のポイントサービスなどを活用し、リアルな場でのマーケティング活動を支援できる」という3つの価値について言及した。
また三木谷氏は「楽天市場は中小規模の企業の方たちにも活用をいただいてきたが、大手企業に対しても価値ある提案ができると考えている。楽天が持っているデータは日本一のデータだと思っているし、このデータを使って、大手企業のマーケティング活動もサポートしていきたい」と新会社に期待を寄せた。
認知から購買、さらにCRMまでがつながるマーケティングの実現目指す
「アドタイ」編集部では発表会直後に新会社の社長に就任した、有馬誠氏にインタビューを行った。有馬氏に新会社の構想を聞く。
――今回の新会社に対しては、デジタルマーケティングの最適化以上に、テレビをはじめとしたオフラインの広告の最適化に寄与する役割に対する期待の方が大きいのでしょうか。
そうです。デジタルマーケティングの最適化はある程度、進んでいますが、デジタルマーケティングとオフラインのメディア、さらにリアルの店舗の融合はまだまだ進んでいませんし、この領域で、できうることはまだ多くあると考えています。
約9000万の楽天会員のデータベースほか、楽天スーパーポイント、楽天カード、電子マネーの楽天Eⅾyといったリアルの店舗でも使われる、多様なサービス群をもってすれば、マス、デジタル、さらに店頭までを垂直統合させ、効果を検証できるマーケティングが実現しうると考えています。
――テレビCMが実際に購買につながったか否か、その紐づけはどのように行っていくのでしょうか。
日本でもネットに接続されたテレビの台数は増えています。楽天のIDを使ってネット接続のテレビにログインをいただけば視聴データも把握できますが、その紐づけについては、ある程度はデータ分析による類推でもできうると思います。
――マス広告、デジタル広告、さらに購買直前のオンライン、オフラインでの販売促進活動のすべてを統合し、その効果を検証しうる垂直統合のマーケティングの実現が新会社の構想の一つと聞きました。一方で、企業側の組織を見るとマス広告、デジタルマーケティング、販売促進を担う部門は別になっています。
私たちが提供するソリューションの効果が高ければ、企業内の組織も変えることができるのではないかと考えていますし、組織を変えるくらいのインパクトを与えられるような価値の提供を目指しています。
さらにはマス広告、デジタルマーケティング、販売促進の統合だけでなく、購買後のCRMまでもつながる、すべてが循環するマーケティングの実現も見据えています。
――他のECプラットフォームでもデータを基にした、マーケティング支援のソリューションを提供する動きはあります。他社にはない新会社の強みはどこにあるとお考えですか。
楽天グループはEC市場の楽天市場だけでなく、旅行にゴルフなど多様なサービスを提供しています。単にモノを買うだけの場ではないところに、楽天が持つデータの価値と新会社の強みがあると考えます。
もちろん個人情報保護の問題がありますので、データの扱いについては慎重な対応をしていきますし、あくまでデータは楽天と楽天データマーケティングが責任を持って管理します。その責任の所在を明確にすることも、出資比率を楽天51%、電通49%とした理由の一つです。
――有馬さんは発表会で「新会社での仕事は、これまでのネット広告、デジタルマーケティング業界におけるキャリアの総決算するようなもの」と話されていました。個人としては、どんなことを実現されたいとお考えですか。
マス広告とデジタル、購買の連携という会社としての大きなミッションとは少し離れますが、デジタルマーケティングに関していえば、ビューアビリティ、アドフラウド、ブランドセーフティといったことへの対応が大きな課題だと思いますし、この問題を解決したい。新会社でも、その対応は最初からフレームワークに組み込む予定です。
こうした問題が出てくるのは、それだけ広告主企業にとってネット広告がなくてはならない存在になっていることの証であるとは思いますが、この問題をクリアにしなければ日本のデジタルマーケティング市場が次のステージに進化することはできないと考えています。
――新会社が営業を開始する10月には、新しいソリューションが提供されるのでしょうか。
まずは、両社が持つソリューションをブラッシュアップして提供する形になると思います。いきなり、テレビCMの効果を購買と紐づけて検証するような商品を提供できるかといえば、そうはならないかもしれませんが、開発に向けたロードマップは早々に提示させていただく必要があると準備を進めています。営業を開始する10月頃には、広告主の方を対象にしたお披露目のイベントも計画していますので、そこである程度のロードマップをお見せできると思います。