一番新しい芸術領域として注目される「アートサイエンス」をテーマとし、最先端のクリエイターたちが登壇した日本初となるシンポジウムである。
社会、クリエイションを変えるアートサイエンスという考え方
「アートサイエンス シンポジウム」は、今年春に開設した大阪芸術大学アートサイエンス学科が企画、開催した。当日は、この領域で最先端を行く6組の講演が行われた。
最初に登壇したのは、1979年からドイツ・リンツで開催されているアルスエレクトロニカのアーティスティック・ディレクター ゲルフリート・ストッカー客員教授。
「アートとサイエンス、それぞれの専門技術や知識だけではソリューションを考えるのは難しく、両者のコラボレーションが必要。だが、アーティストとサイエンティストやエンジニアをただ同じ場に置けばアートサイエンスが実現するわけではない。そこには触媒となるカタリストが必要だ」。
国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 知能ロボティクス研究所所長である萩田紀博教授は「古代ギリシャでは、アートとサイエンスは“テクネ”という一つの言葉で表現されていた。統合医学のように、アートの分野でもサイエンスなどを含め、統合的に考えていく時代になっている」と、話した。
続いて登壇したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ副所長である石井裕客員教授。メディア、アート、サイエンスを柱に1980年にスタートしたMIT メディアラボは、それらの境界線にあるものを追求し続けている。石井客員教授は最初に「サイエンス」「エンジニアリング」「デザイン」「アート」の役割と関係を明確にし、それらを相互に働かせることが新しい価値を生み出すと話した。
「アートサイエンスと社会をつなぐ人々には、この4つの領域の言語を流暢に話し、理解し、なおかつアイデアをそれぞれの領域できちんと翻訳できる、そんなインテリジェンスが求められている」。
石井客員教授はアートサイエンスのクリエイションにおける大事なこととして、「ENVISION(夢思描く)」「ENBODY(夢具現化)」「INSPIRE(感動止揚)」という3つの言葉を挙げた。
「それらをドライブさせるのは、アートに他ならない。新しいパラダイムをつくるときには、アートが持つ役割を重視して取り入れていくことが大事です」。
その後、ライゾマティクス 木村浩康さんと塚本裕文さんが登壇。アートディレクターとプログラマーが二人三脚でクリエイションしていく、同社ならではの進め方を作品と共に解説した。チームラボ代表の猪子寿之客員教授は、冒頭で「Body Immersive」という言葉を挙げた。チームラボは近年、身体とアート、人と人、人と社会などの「境界」を意識しながら作品を制作しており、講演では国内外で展開した作品を紹介した。
NAKED Inc.代表の村松亮太郎客員教授はプロジェクションマッピングから広がった自身の仕事を振り返り、最近では「デジタルを使って地域と一緒に未来を創造していく」ことを大事に考えていると話した。最後はアートサイエンス学科長 武村泰宏教授と「Bound Baw」編集長の塚田有那さんがファシリテーターを務め、講演者全員によるパネルディスカッションが行われた。
日本では、まさにいまアートサイエンスは萌芽し始めたばかり。この日の各講演者の話からは、その考え方と共にクリエイションや表現の多様性を伺うことができた。
編集協力/大阪芸術大学