異例の初版7万部という本気
—『革命のファンファーレ』は、発売の3 カ月以上前からクラウドファンディングで予約販売をしたり、書籍の一部をネット上で無料公開したりと、発売前から話題をつくり、新たなプロモーションも次々に仕掛けていますね。
西野さんが独自でやっていることも多く、しかもすごいスピードで動いていらっしゃるので、把握できていないこともありますよ。SNSで知ることもありますから。ちょっとSNSを見てないだけで、「えぇ、こんなことになってる!」ということも。でもすべては西野さんが本を売るためにすごく考えられてやっていることですから、“全乗り”です。
『革命のファンファーレ』は初版7万部。すごく大きな数字だし、勝負なんです。(幻冬舎 見城徹)社長に「何万部にするか?」と聞かれたので、「7万部にしたいです」と言ったら、すぐ決まりました。社長も、西野さんの本気にとことん乗ろうと。ちなみに、7万部のうちの2万部は西野さんが買い取って、クラウドファンディングと自分の販売サイトで販売し、発売前の時点で約1万5000部売れましたからね。一人の力でこれだけ売るってすごいですよね。
—袖山さんは今回の新刊で西野さんとは6 度目のタッグですが、出版業界のこれまでの常識を打ち破る西野さんの担当編集者としては、やはり大変なのでしょうか。
それはもちろん……(笑)。でも、本を売るアイデアとか発想とか努力において、出版業界は西野さんに確実に負けていますからね。だって全文無料公開とかクラウドファンディングの使い方とか、西野さんがやっていることってこれまで出版社ではありえなかったこと。ただ西野さんは、それできちんと結果を出しています。自分でやると決めたことは、周りが反対しようとも絶対にやる方ですし、なんといっても西野さん本人が自分の言ったことを実現するために誰よりも努力しますから。
『えんとつ町のプペル』も100万部売るって宣言していますが、そうやって、一度口にしては、ブログに書いて自分を追い込む。そばで見ている私がヒヤヒヤするくらいです。私なんて「これやって大丈夫かな……」「誰かに怒られるかな……」みたいについ思ってしまいますけど、でも西野さんのおかげでずっと“いろんなありえない(と思われる)こと”をしてきたので、なんだかもう慣れちゃいました(笑)。
社内「調整」エピソード
—本誌の前号の記事で西野さんが『えんとつ町のプペル』の無料公開はゲリラ的に行ったとお話しされていましたが※、担当編集者である袖山さんもかなりの覚悟を決められていたとか。
ある日、西野さんから電話がかかってきて、「袖山さん、僕、プペルを全文無料公開したいんです!全データください!」って言われまして。心の中では「えーーっ!」って言いました(笑)。でも経験上、ここで考えたり悩んだりしても意味がないんです。とりあえず「わかりました!」と返事して、全データを用意して、全データを送って……。送った後は、内心ビクビクですよ。西野さんを信じる気持ちはあるものの、結果がどう出るか、想像もつきませんでしたし。
でも始まってしまったことなので、すぐに営業の人に「すみません、全文、無料公開になります」って話しました。「えっ? 全文って、全文ですか? 絵もですか?」「はい、絵もです」「え……」みたいな(笑)。「でも止まらないんです。これはもうやっちゃうことなんです!」と伝えるしかなくて。
社長にもなんて伝えるべきか、すごく悩みました。当時はまだ西野さんと社長は直接の面識がない状況でしたし、嘘つくことも絶対にダメだから、もうすべてそのまま言うしかないなと。それで社長に「すみませんが、全文を、無料で、公開しています」と言いました。「これからします」じゃなくて「もうしています」と(笑)。だってもう止められないから。
そうしたら、「なんだそれは!なんでそういうことになったんだ?」って。それはそうですよね。私は「西野さんの言うことには全乗りするしかないんです!」みたいな感じのことを言ったと思います。
その時は、社長も営業も、もうみんな本当にビックリしていたし、当初は怒られる空気になりつつありましたが、でも怒られている間もないくらいに、たちまちすごい反響があって、バーッて売れ始めたんです。その時の社長の言動が印象的で心に残っていますね。「そうか、これで売れるのか。よかった」と全面肯定。西野さんも社長も、柔軟さがすごいなって思いました。
……そんなわけで、ハラハラの無料公開でしたが、いまになってみれば、結果的に私はなんかすごく良いことをした人になっています(笑)。
他にも、西野さんが自分で新聞広告を出したこともありましたね。出版社を通さずに、自分で新聞の広告枠を買って、それも全面広告を出しちゃうなんて、業界としては前代未聞じゃないですか。しかも、絵とタイトルとにしのあきひろという名前だけで、幻冬舎という名前も「絵本」であることがわかる紹介文も入っていない。社内は、びっくりにも慣れたのか、「あ……なるほど……こんなふうに……すごいね」みたいな雰囲気で(笑)。
そんなドッキリすることがいっぱいの毎日なので、心臓には良くないかもしれないですね(笑)。ただ会社のみんなで西野さんを応援しているのは間違いありません。立場が違うと、違う意見が出てくることもありますが、本を売りたいという思いはみんな一緒ですからね。
……「西野亮廣氏の担当編集者として求められること」「西野氏と意見が対立したときのこと」「誤植のファンファーレ」「対面では言えないけどこれだけは言いたい!」など、続きは『編集会議』最新号をご覧ください。