林 信行のモバイルマーケティング注目事例(第2回)

パラパラ写真のアプローチ

林 信行(ITジャーナリスト兼コンサルタント)

(第1回はこちら)ファッション誌やインテリア誌が楽しいのは、頭を空にしてページをパラパラとめくり、「ハッ」とするような写真と出会ったら、指を止め、その世界へ入っていく―あの出会いの感触だ。

電子書籍端末としても注目されるiPad(アイパッド)でも、雑誌のようにパラパラ楽しめるアプリケーションは多い。「Interior HD」などは、まさにインテリア写真をパラパラとめくって楽しむアプリケーションだし、iPad発売直後に話題になった「GAP」のアプリケーションも、無限にスクロールするカタログから気になる写真を選ぶ感覚が楽しかった。

最近、米アマゾン社が、iPad上で、この感覚を自らのeコマースサービスに結びつけた。その名もズバリの「Windowshop」というカタログアプリケーション。米国AppStoreでの評価も高い。商品カテゴリーを選んだ後は、ひたすらアマゾン社の膨大な商品の写真をスクロールして眺めるだけだ。しばらく、眺めていると、どんな人でも「お、これは何だろう?」と思う写真に出くわす。商品の詳細を見て、気に入ったらいきなり買うのもよし。とりあえず、後でじっくり検討するようにショッピングカートに入れておくもよし。ちょっとした隙間時間の退屈しのぎに「そういえば、あれが必要だったんだ」と思い出して買ってしまう機会も増えそうだ。

eコマース以外のビジネスでも、写真の蓄積があり、今後も定期的に増えそうなら、このパラパラアプローチは追い風にできる。

もっとも、この時、大事なのは、ただ「指ではじいて次の情報を表示する」というスペック上の機能ではなく、それをいかに心地よく実現するかという質感だろう(心地よくなければ人は使うのを止めてしまう)。残念ながら今のiPad用電子雑誌の多くは、この質感を軽視した印象がある。この点で見習うべきは、米でも投資家から注目を集めている「FLIPBOARD」というアプリケーションだ。(「宣伝会議」12月1日号から)

※毎月1回掲載(全4回)、次回は12月28日掲載予定
モバイルマーケティング注目事例(第1回)「空間軸×広告のアプローチ」


(はやし・のぶゆき)
1980年頃からアップルの動向に関心を抱き、90年から本格的な取材活動を始める。技術的取り組みやものづくりの姿勢、経営、コミュニティーづくりなど、多方面にわたり取材。『iPadショック』(日経BP)など著書多数。

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