【今回のポイント】
〇ビジョンの前提に「パーパス」がある。あなたの「パーパス」は何か?
〇目先の判断に迷わされず、常に「目的」に回帰する習慣を身につけよう
プロダクトを軸にサービスまで展開広げる、「ネスカフェ」の戦略
私は今、ネスレ日本で「ネスカフェ」ブランド全体のマーケティング施策を立案・実行する立場にあります。「ネスカフェ」は日本で50年以上の歴史をもつロングセラーブランドですが、2013年には歴史のある「インスタントコーヒー」の販売を終了し、「レギュラーソリュブルコーヒー」に全面刷新を行うなど、この数年で大きな変革に挑んできました。
また2009年にコーヒーマシンの「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」を発売。
コーヒーを瓶からカップにスプーンで入れ、お湯を注ぐ従来の淹れ方をマシンの登場で生まれ変わらせ、その後2012年にはそのマシンを職場に無料で貸し出すオフィス向けのサービス「ネスカフェ アンバサダー」を開始するなど、ビジネスモデルをプロダクト中心から、プロダクトを軸にサービスまで広げた展開へとシフトを続けているところです。
コーヒーマシンとしては後発で市場に入りながらも、現在では「バリスタ」は累計480万台の出荷(2018年6月末現在)を突破し、コーヒーマシン市場でNO.1のシェアを確固たるものとしています。
航空会社に結婚情報誌、異色のコラボレーション企画の背景
この独自性のある「バリスタ」の浸透を広げることが、最終的には「ネスカフェ」の消費アップに最も貢献してくれるわけですが、それを進めていく上で私が近年力を入れているのが、これまでにないコラボレーションを生み出し、家庭内外で「ネスカフェ」に接し、楽しんでいただく体験の場やシチュエーションを広げることです。例えば2016年からは航空会社の「スカイマーク」、2017年からは結婚情報誌の「ゼクシィ」とコラボレーションし、サービス展開を始めました。
また食品企業としては珍しくIoTのソリューションにも力を入れています。2016年には「バリスタ」のIoT対応モデルの販売を開始。昨年11月には、IoT対応モデルの「バリスタ」と、ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper」や川崎重工業の「duAro」という2社のロボットが連携し、無人でコーヒーを提供する「無人カフェ」の企画を実現、今年2月にはこれを訪日中国人という新たな顧客層の獲得に向けたサービスとしても展開し、事業領域を拡大しています。
これまでにないアイデアを考え、また具体化するには多くのハードルがあります。この連載では、私のこれまでの経験をもとに私なりのアイデア発想と、その具体化のアプローチ法、それを形にしていくためのリーダーシップについて解説していきたいと思います。
ビジョンの前に「パーパス」がある、自分たちは何のために働くかから考えよう
私が現在のような、食品・飲料というカテゴリに捉われない挑戦ができるのは、ネスレ日本という企業の持つ環境特性が多分に影響しています。
ネスレでは、企業の「パーパス」を非常に重視しています。「パーパス」とは、その企業が存在する社会的意義を言葉にしたものです。ビジョンや目標を考える前に、すべての従業員がネスレの「パーパス」を理解することが求められます。ちなみにネスレの「パーパス」とは、「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というものです。
スイスにある本社から、このパーパスが提示され、私たちは少子高齢化が進む日本というマーケット特性を考えながら、このマーケットでパーパスを実現するための事業プランを描いていきます。
「パーパス」という基軸が決まれば、おのずと自分たちがビジネスを推進する領域は決まります。私たちの扱う「ネスカフェ」も、その事業領域においてビジョンを掲げ、ブランドの未来像を明示しています。ビジョンとは未来の自分たちのありたい姿ですが、ベースとなる「パーパス」、つまりは社会的意義がなければ納得性も具体性も生まれてきません。