未来のブランド価値創造を阻害する、行きすぎた「効率経営」とは

【前回コラム】「ブルーノートと蔦屋書店にみるブランド価値の再編集」はこちら

前回は“ブランド価値の再編集”の具体例として、ブルーノートと蔦屋書店の事例を取り上げました。「ブランド価値の再編集」は、未来の顧客を生み出し、企業の未来をつくる事業戦略につながります。しかし、リーマンショック以降、蔓延する短期の成果主義は革新的な戦略変更や事業構想の実現を難しくしているのかもしれません。今回は、なぜ再編集が必要なのかを、企業の経営課題の面から掘り下げて考えてみたいと思います。

「新しいブランド価値をつくる」=「未来の事業をつくる」こと

どの製品を選んでも失敗のない成熟社会。そんな時代を迎え、多くの企業は、製品力だけで圧倒的なブランドを構築することが難しくなり、ビジネスの転換期を迎えています。製品中心の事業から、顧客の感情を中心に据えた事業へとパラダイムチェンジを起こすためには、生活者との心のつながりを醸成するブランドの再構築が必要です。

そのためのソリューションのひとつが、前回の記事で触れた「ブランド価値の再編集」でした。これは企業やブランドに蓄積された価値のストックを再編集することで、これまで製品に振り向いてくれなかった新しい世代の感情を揺さぶり、新たな行動を呼び起こすというものです。この行動を売り上げに変えることができれば、未来につながる事業の可能性も見えてくるはずです。

新しい価値創造を阻む要因は、行きすぎた「効率経営」

日本のロングセラーブランドの多くは、いい製品を世の中に提供することで成長してきました。ところが、性能だけで選ばれる時代は終わり、連綿と続いてきた事業モデルを見直す新時代に突入しているのにもかかわらず、多くの企業がその見直しに取り組めておらず、いまだ“目の前の製品をいかに顧客に売り切るか?”に注力する企業が多いように感じます。

行き詰まりを感じている人は多いのに、なぜ行動に移れないのでしょうか?
その大きな要因の一つは、成果主義人事や株主資本主義に象徴される近視眼的なマーケティングや経営にあると思っています。

2008年のリーマンショック以降、徹底した効率経営がなされた結果、日本企業は無駄を削ぎ落とすことで利益を確保してきました。経済状況に大きな変化が起きた際、これまでの事業を再点検することで無駄を省き、売上や利益に直結するものに優先的に資金を投下するのは当然のことです。しかし、同時に先を見据えたビジネスの種をまくことも必要なはずです。なぜなら、コスト削減や効率経営は手段であって、目的ではないからです。

ただ、現実を見れば、目先の成果を追うことに終始してしまい、革新的な戦略変更や大胆な事業戦略の転換に立ち向かうための足並みが揃わないことが多いのではないでしょうか。中長期の未来のことを考えた行動・施策を実行できないのは、企業の現場だけではなくマネジメント層を含めた問題だと思いますし、いまの日本社会の構造的な問題かもしれません。

■効率経営が目指したもの=計測可能な指標を中心とした経営評価・KPI
図A

 

■効率経営が蔑ろにしたもの=未来のブランド価値創造
図B

次ページ 「必要なのは、予測不可能な未来を切り開く、
「創造的な問いかけ」と「進化への尽きぬ挑戦心」」へ続く

次のページ
1 2
藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)
藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ